俳優人たちの見事な「滑り」

そして、氷艶の大きな見せ場の一つが氷上の殺陣だ。高橋さんらが悪役と戦う殺陣は、氷上ならでのスピードや回転をいれ、迫力満点。しかも現役の体に戻した髙橋さんのスケーティングのキレが尋常ではなく、緩急の差をつけた殺陣が見事だった。また光源氏の親友でもある家臣、頭中将を演じた福士誠治さんと、悪の権化のような長道の波岡一喜さんは俳優として物語をひっぱった上に、氷上での殺陣が自然なこと。福士さんはスケート経験がほぼなかったそうだが、とてもそうは思えなかった。

途中から源氏物語の世界からオリジナルストーリーへ。桐壺帝が崩御後、朱雀の君が帝となり、追っ手に追われた光源氏が紫の上と別れ別れとなったところで1幕終了。軽い放心状態になった。「俳優・高橋大輔の誕生だね」という声があちこちから聞こえていた。

しかし、2幕にさらなる驚きが待っていたのだ。

高橋大輔がミュージカル俳優に?

2幕は光源氏が弘徽殿の女御や朱雀帝と戦い、幽閉された紫の上を奪還し、平和な世を取り戻そうと決起する。流れついた光源氏を救ったのが、柚希礼音さん演じる、男として育てられた海賊の長、松浦である。元宝塚のトップスターの華は圧倒的で、その存在感と本当は女性ながら男として生きるパワフルな歌声がかっこいいのなんの。松浦の「恋」の切なさも、柚希さんだからこそ表現できたと感じる。その妹分、咲風の村上佳菜子さんの愛らしく切ない滑りとひたむきな演技、朧月夜を演じた鈴木明子さんのも報われぬ心の滑りなども心に残る。そして、幽閉した紫の上に強引にせまるステファン演じる朱雀帝と、複雑な女心を見せた紫の上・リプニツカヤの連れ舞からは二人の哀切な思いが伝わってきた。

宝塚を退団後、初の「男役(本当は女性だけど男として生きている役)」ということでも注目を集めた柚希さん ⓒ氷艶2019

今回の公演の一番大きなサプライズは、2部で高橋さんがソロで本格的に歌ったことではないか。柚希さんや福士さんと剣をかかげ、歌いながら決起する場面はまさにミュージカル。特にクライマックスのソロには本当に驚き、鳥肌がたった。弘徽殿の女御の陰謀に巻き込まれ、光源氏は愛する人を失う。愛する人を奪われたことに慟哭し、常に愛する人が去る自分の運命を呪う。圧倒的な孤独感。歌で観客を涙させる存在に、高橋さんがなった瞬間だった。