スケーターたちの見事な演技

そうして迎えた初演は、平日の昼間なのに横浜アリーナが満杯の入り。川井憲次さんの音楽で彩られる物語は、チーム・ラボのインタラクティブプロジェクションで観客を異世界に連れて行く。正面のスクリーンとリンクに、都や自然の背景が写しだされ、月が輝き、時に花びらが舞い、海原となる。その時々の情景や心情が会場を変えていくのだ。

時は平安、桐壺帝の御代。光源氏を生み、帝の寵愛が深い桐壺の更衣を妬む弘徽殿の女御は、臣下の長道に命じ、陰陽師に桐壺の更衣を呪い殺させた。光源氏の孤独はここから始まる。西岡徳馬さんの桐壺帝はさすがの威厳を感じさせる。

そして前回の氷艶で悪役に開眼した荒川静香さんの、今回、さらにパワーアップした悪役が光る。自分の息子、朱雀の君を帝位につかせるために光源氏を陥れる弘徽殿の女御という再びの悪役に挑戦。長道を演じる波岡さんと一緒に多くの悪だくみを行う。陰陽師役として不気味な存在だった織田信成さん。そしてナレーション及び桐壺の更衣と藤壺宮を演じる平原綾香さんの高貴で慈愛に満ちたセリフと歌声が物語に説得力を持たせていたと思う。

荒川静香さんが自身のTwitterで「悪役3人組」をアップ! 「Shizuka Arakawa@tiramisu11」より

そして、月にたとえられる光源氏の髙橋大輔。「事件」の予感は、最初の登場からあった。牛若丸のように結った髪をなびかせ、疾走感のあるしなやかな滑り。ステファン・ランビエール演じる太陽のような朱雀の君との歌競(うたくらべ)や狩りの場で競う、二人の生き生きとした滑り。生みの母に瓜二つの、平原さん演じる藤壺宮に恋い焦がれる舞。紫の上を演じるユリア・リプニツカヤとの連れ舞のさわやかな色香。年齢や場面で変わる、情感のこもった滑りは、ふんわりと軽いが氷にすいつくような極上の滑りだった。

2017年の氷艶と大きく異なるのが、スケーターたちもセリフのある役が多かったことだ。特に主演の高橋さんは量が多いが、最初はあまりに自然だったのと、高橋さんの声と違う印象を受け、吹き替えだろうと思っていた人も多かったようだ。私もそうで、本人と気づいた後は「録音」ではないか思ったが、インカムに気づき生声とわかる。彼は少年、青年、大人になるに従い、滑りと声色まで変えていたように思う。優しい声、切ない声、苦悶や怒りと演技も表現豊かだった。

1幕には、高橋さんにとって初となるラブシーンもあった。藤壺に「あなたが欲しい。あなたのすべてが」と言った後の求愛の滑り。弘徽殿側に命を狙われた後、藤壺宮の寝所を訪れた光源氏は、彼女と一夜を過ごしてしまう。それはリンクの真ん中にしつらえた御簾の中でのシーンだ。リンクをぐるりと囲み、天井に近いところまで埋まる観客が息を詰めて見守る中での演技は、本人は大変だったろうが、とても自然だった。紫の上役のユリヤ・リプニツカヤさんとも連れ舞いの後に抱擁シーン。妖精のようなリプニツカヤさんの滑りとI字スピンで魅せる柔軟性も健在だった。