人生最大の夢は世界旅行

フランス人カップル最大の夢は、早めの老後の世界一周旅行につきる。子育てを終えて一息ついたところに、人生最大の夢を実現させるために、マダム、ムッシュは着々とお金の準備を進める。つい最近、世界旅行から戻ってきたミニョン夫妻の話をしよう。

パリ西郊、サン・ジェルマン・アン・レイの高級住宅地のアパートに住むミニョン夫妻は、世にいうプチ・ブルを絵にかいたような人たち。夫妻には二人のお子さんがいる。長男のパスカルにはすでに子供が二人。パリの15区に住み、トムソンという大手電機メーカーの主任エンジニアである。

娘のアナイスは結婚こそしていないものの、歯科医のシモン氏との間に2歳になる女の子がいる。娘が結婚はせず、コアビタシオンという同居のまま子供を産むことにミニョン夫妻は賛成こそしなかったが、反対もしなかった。結婚も同居も形式だけのちがいだという娘の意見を尊重し、割り切ることにしたからだ。そして10年後のご主人の定年を待って夫妻は、丸一年間の世界旅行を実行に移したのだった。

訪れる国の人々の生活を学ぶために、なん冊もの本を買い、簡単な会話のための語学教本を探した。なによりも先に着手したのが、10年定額の旅行貯金である。20年来の親友の私は、ミニョン夫妻のしたことが彼ららしくていいと感心したものである。

ミニョン夫妻は住んでいる家以外の、彼らの財産のすべてを処分する決心をした。それまでに持っていた有価証券をすべて売却し、日本円にして約200万の現金を作った。アフリカやインドなど、滞在費の安い国ばかりをまわるなら、月々日本円にして3万円ずつ10年定期で貯めた金額で足りたにちがいないが、それでは世界旅行の意味がない。ニューヨークのソーホーに住んでみたいし、日本で最低2ヵ月は暮らしてみたいと願ったのである。京都や太宰府天満宮にもいきたいと、マダムは日本各地の観光名所の写真集を広げた。

11年前のクリスマスの晩、1年間の世界旅行計画を2組の子供たち家族に発表したミニョン夫妻。計画通りにその10年後、クリスマスを終えてすぐに子供たちに見送られ、パリのシャルル・ド・ゴール空港から世界旅行へ旅立った。そして翌年のクリスマスの前々日、大量のお土産を抱えて夫妻は帰国した。

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サン・ジェルマン・アン・レイの自宅の居間に娘のアナイスが用意した、大きなモミの木の下に、夫妻が旅先の国々で買った記念品を包んだパッケージの山ができた。その一つ一つの箱には買った国や町の名前とともに、プレゼントされる人の名前が書かれていたのである。以来、ミニョン夫妻は仲間内では憧れの的になった。人生で最大にして最高の、世界一周旅行を遂行した羨ましいカップルとして。
 

日本が大好きだから、そしてフランスも大好きだから、そのいい所を思う存分真似したら、もっと幸せになるんじゃない? 底抜けに明るく優しく、かつ鋭い視点をもつ吉村葉子さんが20年間のフランス生活を振り返ってまとめたエッセイ集。考え方ひとつで不幸だと思っていたことも幸せになるし、人生は楽しくなる! その中から厳選したエッセイを特別に今後も限定公開予定。お楽しみに!