20年間住んだパリから日本に帰国しているエッセイストの吉村葉子さん。37万部を超えた『お金がなくても平気なフランス人、お金があっても不安な日本人』は、長くパリに住み、そして長く日本にも住んでいるからこその「生きるヒント」が散りばめられているエッセイだ。

そこからオンラインで初めてご紹介するエッセイの第10回は、ケチと言われるフランス人の「貯金」について。OECDの調査によると、2015年時で日本人は毎年家計の1.42%しか貯蓄できていないのに対し、フランスは8.40%、およそ日本人の7倍の貯蓄率を誇る。しかしその調査を遡ると、2000年は日本が8.85%、フランスが8.65%。日本は15年のうちに右肩下がりの貯蓄率なのだ。「貯蓄のメリット」が減少していることや、目の前の生活への困難が原因なのだろうか。

ではフランス人の貯金はどんなふうにしているのか。吉村さんが伝えるその方法は、原始的でありながら、ある意味「具体的な長期的目標」に向かっていくことで「貯金したくなる」方法だった。

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買いたい物件がなくても、
だれもが住宅貯金をはじめる

備えあれば憂えなしの言葉どおり、日本ではいざというときのために貯金をする人が多い。一家の主の失業だったり病気だったり、または地震や災害など、いざの仮説はなぜか暗い。困ったときを想定してお金を貯めておくよりも、いっそ気持ちが楽しくなるお金を貯める目的を持とうではないか、フランス人のように。

彼らの貯蓄目的をみると、第一が住宅購入。バカンス積み立てや世界旅行がそれに続く。私が長く口座を持っているBNPという銀行があり、最近パリバ銀行と合併してBNPパリバ銀行になったのだが、いきつけのその銀行の担当者のマダム・ムランがあるとき、私にこういった。

貴女、そろそろエパーニュ・ロジュモンでもしてみたら

エパーニュépargneは貯金でlogementが住宅、つまり住宅貯金のことである。
目の前に買いたい物件がなくても、少し余裕ができるとフランスではだれもがエパーニュ・ロジュモンをはじめる。そしていつか自分の家を持ちたいという夢を実現するために、積立貯金をはじめる。月々の積立金は5000円からでもいい早い時期にはじめておけば、それだけ銀行との信頼関係も深まり、実際に買いたい物件が出た時点で、融資が受けやすいシステムになっている。

同じパリ市内といっても、区によって価格はまちまち。値段の高い市内のアパート購入をあきらめ、郊外に一軒家を購入するケースも多い。または自宅は賃貸のままでいいから、パリから離れた自然環境の中に、メゾン・ド・カンパーニュと呼ばれるセカンドハウスを購入するカップルもいる。

金額よりも「地道さ」が銀行で評価される

購入資金の融資に関しては、借りる本人の職業や頭金の額よりも、銀行で地道に住宅積み立て貯金をしていたという実績が、高く評価されるのである。そこには借り手が自由業だからという貸し渋りもなければ、職種によるハンディもない

カフェのギャルソンだからといって、貸し渋る銀行があったとしたら、無名の画家だからといって家のローンが組めないような銀行があったとしたら、そんな銀行はフランスならすぐさま倒産するにちがいない。まっとうに税金をはらっていれば、そして一つの銀行でエパーニュ・ロジュモンをしていたら、だれにでも公平に銀行は融資する。融資するのが銀行の業務にほかならないし、職業に貴賤があろうはずがないから。わずかずつでもエパーニュ・ロジュモンをしておけば、近い将来に自分の家が持てるという、ささやかだけれども確かな希望がある