ネタバレ厳禁社会の息苦しさを、ドラマ『あなたの番です』から考える

そんなに敏感にならなくても…
堀井 憲一郎 プロフィール

「物語」の楽しみ方再考

もう少し寛容でもいいのではないかとおもう。それはたとえば『あなたの番です』での菜奈(原田知世)の対応である。

彼女は、初対面で江戸川乱歩の小説の結末をばらす青年を「変わった子」と表現し、彼が結末や犯人をばらすために「もう!」とは怒るが本気ではない。いつもしかたないんだから、という気分で軽く抗議している。困っているが、攻撃的にはならない。
この、攻撃的にならない、というところが大事だ。

軽い失言のたぐいを「自然の軽い災害」だとおもえば、本気で怒る気にはならない。風がとても強い日は、ちょっと困ったなあとおもって過ごすしかないわけで、「ふざけるな、風を強く吹かしやがって、許さねえぞ」と攻撃的になったところで、どうしようもない。そういうふうにやりすごす手立てを持っていたほうが、人生、生きやすくなるという処世である。

 

もちろん軽く抗議はするし、対応策も考える。でも攻撃的には怒らない。自分の不快を解消させようと相手に詰め寄っても、他に転換することはできるかもしれないが、もともとの不快そのものは消えない。

ネタバレを厳しく禁止しないほうがいいのは、物語の持つ大きな意味は、ストーリー展開にはなく個別な物語の流れに引っ張られて行く経験が大事であって、そこで驚きや意外性だけを求めるのは、かなり些末なことだからでもある。「物語のもつ本来の力」の受容よりも「刺激的に楽しみが欲しい」というゲーム的な欲望の充足を求めてしまうのはあまりいい傾向ではない。かなり危うい路地に入り込んでしまう可能性がある。

ただ、そういうネタバレ禁止は緩やかでいいんではないか、という考えを私は持っているくせに、でも『あなたの番です』の翔太の「悪びれずにネタをばらしてしまう姿」にはとても引っ掛かってしまった。だめだろ、それ、とおもってしまって、ドラマの企図にまんまと乗せられてしまっている。

おそらく「頑張ってみんなの力で達成しようとしているネタバレのない世界構築」を平気でひっくり返しているように見えるから納得できないのだろう。みんなで共有ルールを作っているところなのに、最初からルールそのものを無視しているところがちょっと受容しがたいようである。

昭和と違う締め付けは息苦しいと感じながら、私もマナーを守ろうとしているので、うっかりミスならともかく、マナーの存在そのものをスルーされると強く違和感を抱いてしまうのだ。まあ、田中圭がそれだけちゃんと演じているということでもあるが。

厳しいネタバレ禁止世界は息苦しいが、まったく共有しないネタバレ男にも困るという、あっちこっちな自分を認識させられた。

この翔太のこのキャラクターがドラマの展開の鍵になっているんじゃないかしら、ちょっとおもわなくもないが、ミステリーの予想なぞしたことないので、そんな想像が何かしらの足しになってるともおもえない。たぶん関係ない。

これからの段階的な謎解きを楽しみに見るばかりである。