たとえば、鉄分は小児の成長・発達に非常に重要な微量元素と分かっています。実際、乳幼児が鉄分不足になると、以下のようなことが懸念されます。
乳幼児期は味覚や嗜好が形成される重要な時期でもあります。
「小さい頃から甘いものを飲み過ぎると、その後も甘いものが好きになる」と聞いたことがある方もいるかもしれませんが、実はこれにも科学的な根拠があります(Appetite. 1984;5:291-305)。
生後間もない新生児に真水、0.2Mスクロース溶液、0.6Mスクロース溶液を飲ませた研究があります。この研究では、新生児期にはどのグループも甘い飲料ほど多く飲む傾向にありました。
その後、ジュースなどの甘い飲料を飲ませなかったグループ(1)、生後6ヵ月まで甘い飲料を飲ませたグループ(2)、生後6ヵ月以降も甘い飲料を飲ませたグループ(3)に分けて2年間追跡しています。
2歳になった時に、同じ3種類の飲料を飲ませたところ、甘いものを習慣的に飲ませなかったグループ(1)は、飲料の甘さに関わらず飲水量は変わりませんでした。つまり、水分補給に必要な量だけを飲んだと考えられます。
一方で、甘いものを生後6〜12ヵ月の間習慣的に飲んでいたグループは、甘いものほど飲水量が増える傾向にありました。
このように、乳児期に甘いものを習慣的に飲ませてしまうと、将来甘い飲料を好んで必要以上に飲んでしまうため、小児肥満の原因などになり得ます。
祖父母世代から「昔は果汁を飲ませていたのに」などと言われてしまう可能性もあります。現に、乳児健診や小児科外来でもそのような質問を保護者からされることもあります。
確かに、一昔前は「生後2〜3ヵ月になったら果汁をあげてください」と小児科でもアドバイスしていました。
しかし、1980年代〜2000年代にかけてさまざまな研究が行われた結果、アメリカ小児科学会を始めとした複数の学術団体は、「生後1歳未満には果汁やフルーツジュースを与えないように」とアドバイスをするようになりました。
日本でも、2008年4月以降の母子健康手帳から「薄めた果汁やスープを飲ませていますか」という文が削除されています。厚生労働省の『授乳・離乳の支援ガイド』にも、「離乳食開始前に果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的な意義は認められていない」と明記されています。
小児科学も日々進歩しているため、研究結果によっては方針が変わりうるのです。大事なことは、過去の方針を絶対視せず、こういった方針の変化の根拠を知り、柔軟に対応することだと私は考えています。
これまでは1歳未満のフルーツジュース・果汁と健康についてお話ししてきましたが、ここからは1歳以上の小児について解説していきます。
1〜2歳以上の小児はフルーツジュース・果汁を習慣的に飲むことがあるかもしれませんが、飲む量の上限は守ったほうが良いでしょう。その理由の1つに肥満のリスクがあります。
2017年に報告されたシステマティックレビューとメタ解析があります(Pediatrics. 2017;39. pii: e20162454.)。この研究ではアメリカ、ドイツ、イギリスの6つの研究結果を参考に、100%フルーツジュースの1日あたりの飲量と小児肥満のリスクを検討しています。