金融機関は脱ノルマへ!? 遠藤金融庁2期目の「新方針」を明かそう

「心理的安全」なき職場の末路 前編

6月下旬、金融庁――。遠藤俊英長官から1枚の紙が突如配られた。長官と若手職員がざっくばらんに意見を交わすことを目的として遠藤が自ら発案して始めた会合「Tone at the top」での出来事だ。

紙には遠藤直筆の「図解」が描かれていた。いわゆるポンチ絵の下書きのようなものだ。

金融庁と金融機関の経営・本社幹部・営業店、さらに取引先の顧客・企業が表記されている。目を引くのは随所に書き込まれた「psycological  safety」というワードだ。

これはグーグルが2012年から取り組んで生産性向上の成果を出したという「プロジェクト・アリストテレス」でも注目された「心理的安全」を指す。

ちなみに「プロジェクト・アリストテレス」とは、業務時間の20%を担当外のことに取り組んでもらう試みだ。職場内の「疑似副業」とみなしても良い。

「心理的安全」が遠藤金融行政の柱

「心理的安全」とは、必要だと思うことを必要な時に気兼ねなく声を上げられる心理的環境の状態だ。

「必要な問題への対処」よりも「社内政治」が優先されることのない「場の空気」である。心理的安全があってこそ、本当の議論を交わせ、自由な発想で、創造性を発揮できるという考えだ。

遠藤自ら書いたということは、金融機関は「金融庁による強い問題意識の表れ」と見るのが正常な感覚だ。

なぜならば、心理的安全の欠落こそが、金融に最も欠けており、この欠落こそが個人顧客、法人顧客による金融不信の元凶であると読み換えてもまったく差し支えないからである。

「心理的安全」は、8月にも示される金融行政の方針にも盛り込まれるであろう。すなわち2期目の遠藤金融行政の柱の一つとなるはずだ。

目を転じれば、拙著『捨てられる銀行3 未来の金融~計測できない世界』(講談社現代新書)で取りあげた商工中金、スルガ銀行、東日本銀行も、その後に明らかになった西武信用金庫、直近の話では、かんぽ生命などはすべて共通した一つ問題から発している。

経営や本部が苛烈なノルマで営業店、現場を追い詰め、結果、現場が暴走したために起きた事案だ。心理的安全が欠落しているのである。

いずれも目先の短期利益を追求し、営業を推進させた結果、計り知れない企業価値を崩壊させた「愚かな経営」の代表例である。

興味深いのは、金融機関の経営の人間と話すと「ノルマがなければ従業員は弛緩する。ノルマを喜ぶ営業担当者もいる」と堂々、反論されることがあることだ。

しかし、これは裏を返せば「自分は従業員を『自走できない弛緩したがる怠惰な生き物』だと見ており、金融機関が果たさなければならない本来のミッションへの参画を通じた喜びを従業員と共有するなどという経営能力は自分にはない」と、認めていることになる。