その歯の激痛は「歯」が原因じゃないかもしれない

6年間痛みにもんどり打った男性の記録
木原 洋美 プロフィール

マイナス思考が治療を妨げる

なぜAさんは原因解明までに6年もかかってしまったのだろうか。

「そうですね、Aさんの症例は、口腔顔面痛としては最も一般的な痛みで、専門医ならば比較的簡単に診断できるものですが、他科の医師にはなかなか診断できません。日本最高レベルの複数の医療機関を受診したのに、原因不明なまま改善しなかったことも、Aさんの病状悪化に影響しています。

治ると期待して受診してガッカリしたことで、医療への破滅的思考を高めてしまったのです。患者さんの心が医療に対して否定的になる傾向をそう呼びます。『また治療を受けてもどうせダメだろう』というマイナス思考が働き、治療効果が出にくくなるのです」(和嶋氏)

 

その後、Aさんは以下の治療法を受けた。

(1)筋・筋膜疼痛の元になっている筋肉の表層のコリ(トリガーポイント)に局所麻酔注射(トリガーポイント注射)を行う。

(2)咬筋(頬)に超音波を当てて、筋ストレッチおよび筋膜リリースを行う。※最近では超音波画像を見ながら、筋膜に生食水を注入し、筋膜剥離を行う方法も行われている。

現在、痛みは完全に消失したわけではないが、かなり改善しているという。仕事中は気にならないが、時々、仕事が忙しくなるとこわばる程度で、筋ストレッチなどセルフケアによって痛みをコントロールできるようになった。

「6年間の、私の苦しみはいったいなんだったのでしょう。辛すぎて、死を考えたこともありました。最初の頃に、非歯原性歯痛と筋・筋膜疼痛のことを知っていたら、あんなに苦しまなくても済んだはずです。こんなにあっけなく改善するなんて、正直、やるせない気持ちです」

原因不明の痛みと不安から解放されたAさんの言葉だ。Aさんと同じような症状に悩む人への解決の糸口は、思わぬところにあるのかもしれない。