自由貿易の理念を捨て、中国の成長を阻止する…米国の戦略は是か非か

中国大ダメージ、しかし世界にも負担が
野口 悠紀雄 プロフィール

外資が脱中国の動きを鮮明に

外資企業は、中国経済で重要な地位を占めている。

国家統計局によると、外資の輸出入額は2017年で約1兆8000億ドルであり、全体の4割を超える。

また、2017年末時点において、外資と香港や台湾系企業を合計した都市部の雇用者数は、約2600万人であり、全体の約15%を占める。

ところが、このところ外資企業が生産拠点を中国外に移す動きが加速しているのだ。

アップルが生産を委託する中国企業は、ベトナムでのイヤホン生産に乗り出す。在中国のアメリカ企業でつくる中国米国商会が5月に実施した調査では、会員企業の4割が「生産拠点を移転したか、検討中」と答えた。

上で述べた設備投資の減少は、外資中心に工場の海外移転が進んでいるためと考えられる。

これに対して、インドやベトナムなど中国周辺への投資額は、1~3割伸びている。

 

米中貿易戦争は中国の成長を叩き潰す戦いだった 

トランプ大統領は、中国からの輸入に高関税をかける理由として、「雇用をアメリカに取り戻す」と言っていた。私は、それがまともに受けていたので、「高関税をかけたところで製造業の生産や雇用はアメリカに戻らない。だから、高関税政策はまったく無意味」と考えていた。

しかし、中国の成長を叩き潰すという点から言えば、高関税は確かに有効な方策だ。

とくに、外資が生産拠点を中国からインドや東南アジアに移す動きが本格化すれば、中国にとって大変大きな痛手になるだろう。

これは、確かに未来に対する戦略の1つとして、あり得るものだ。

だが、このことは、自由貿易の理念に反する。

グローバルサプライチェーンの最適な姿からは逸脱することとなるわけで、世界の企業にとっては、余計なコストを負担させられることになる。日本の企業もそうだ。

つまり、問題は、このようなコストを払ってまで中国を世界経済から締め出そうという試みを、是とするか否かだ。

「多大のコストを払っても、中国が未来世界を支配することを阻止するのは意味があることなのか?」

これが、現在世界経済が直面している重大な問題である。日本も、そうした戦略を是とし、相応のコスト負担をするか否かを、決めなければならない。

ただし、そうしたコストを払ったとしても、グローバル経済からの中国の締め出しが成功する保証はない。リーマンショックの時に、中国経済が崩壊するかと思われたが、中国は4兆元経済対策(2008年11月)で切り抜けた。今回も、貿易戦争に耐え抜くかもしれない。

関連記事