反発と羨望が入りまじる「香港デモ」中国社会の複雑な受け止め方

「奴隷のままでいたい」と願っている?
古畑 康雄 プロフィール

「一国二制度」の原点に立ち戻れ

抗議運動のエスカレートで、香港問題は着地点が見えない状況になっているが、平和的に矛盾を解決する道はあるのだろうか。

これに関して、英紙フィナンシャル・タイムズに今月初め、自由派の学者として知られる北京大学の張千帆教授(憲法学)は「政治改革こそが香港安定をもたらす」との評論を寄稿した。

この中で政治改革に再び取り組むことが香港を再び安定に導くことができると述べ、矛盾や対立を激化させるのでなく、香港人に属する政治的権利を彼らに返すべきだと、次のように指摘している。

 
法治を重んじる香港社会で大規模な民衆の集会や抗議が相次いでいるのは、痛ましく、憂慮すべきことだ。過激な運動の背後には、非理性的な政府の政策や対応がある。中央(中国政府)、香港政府のいずれも1997年の香港返還後に「一国二制度」を根付かせたかどうかを反省し、動乱の根源を取り除き、香港の民心を取り戻さなければならない。
香港人の抗議表明は、香港の自治と法治が近年脅かされ、「一国二制度」が「全面的管理」に取って代わろうとしていると感じているためで、現在残された空間を使って全力で戦っているのだ。
中央政府の管理が強まるほど、香港の反発は強まる。
中央と香港の矛盾を解決する方法は難しいものではない。つまり、「英中連合声明」や「香港基本法」が体現する「一国二制度」の理念に立ち返ることだ。一国二制度は中央と香港の関係を調整する基本契約であり、中央は「一国」に、香港は「二制度」にそれぞれ関心がある。
もし香港人が民主自治の前途に絶望すれば、極端な道に進むしかないが、基本法が約束した「高度な自治」を香港に返し、香港人が望む民主的選挙の権利を加えれば、彼らが「香港独立」の危険を冒す理由があるだろうか。
香港人の主要な訴えは「二制度」であり、民主的な自治と法治を保障すれば、大多数の香港人は中央と対抗する理由も、まして「香港独立」を支持する理由はなくなる。
デモに対して高圧的手段だけに頼るのではなく、「一国」の大前提の下で香港の人々に属する政治的権利を彼らに返し、真の意味での政治改革を行うことで、香港の人々を街頭の抗議運動から民主的な政治参加へと導くことができる。真の政治改革を実施することこそが、中央が香港人の好感と信頼を得る手助けとなるのだ。

評論はあくまでも一国二制度の前提の下で、香港の政治改革を進めるという、中国政府の基本原則に配慮しつつ、香港の民主派の要求に答えようとしており、理想的な落とし所と言える。もしこれが双方のコンセンサスになれば、解決の道が開かれるのだろう。

香港問題について、習近平国家主席自身はこれまで明確な態度を示していないが、香港問題について、中国のメディアで情報や意見を発信することが認められている数少ない1人、環球時報の胡錫進編集長は22日、「一国両制、港人治港(香港人が香港を統治する)」が現段階で香港問題のトラブルを減らす最良の方法だと述べ、「一国両制度」の廃止や鎮圧のため軍隊の導入に反対している。

タカ派路線で知られる同紙らしからぬ論調だが、おそらくは台湾問題などへの波及を懸念した発言とみられる。それでも、武力鎮圧を主張する強硬な意見に比べれば、張氏の主張に近いと言える。

暴力による衝突ではなく、それぞれの主張について中国と香港の民間社会が対話により相互理解が進むのが望ましいのが言うまでもないが、中国側で情報封鎖が解かれる可能性は低い。

相互理解の場を持たぬまま、香港と中国の世論の対立がエスカレートを回避する道はあるのだろうか。

(本稿は筆者個人の見解であり、所属組織を代表するものではない。)