英マンチェスターにあるチューリングの銅像 Photo by Graham C99 / Flickr

「去勢」され自死を選んだ天才数学者はこうして紙幣になった

今月の科学ニュース「チューリング」
世界中で日々報じられている科学ニュースから注目の話題をピックアップして解説する好評コラム、今月は迫害された「AIとコンピュータの生みの親」の復活劇を追います。

映画化に続いて紙幣化!

深夜、倉庫のような研究室。巨大なマシンの前面で、数十個の丸い歯車のようなローターが激しい金属音を立てながら回っている。ベネディクト・カンバーバッチが仲間とともにそれを見守る。

がしゃんと音がして、マシンが止まった。カンバーバッチが息をのむ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』のクライマックスシーンだ。

カンバーバッチが演じたのが、「天才数学者」のアラン・チューリング。

第2次世界大戦中、イギリスの政府暗号学校「ブレッチリー・パーク」で、ナチスドイツの暗号「エニグマ」の解読に取り組んだ。膨大な可能性を総当たりで調べるマシン「ボンベ」を設計したが、ボンベはただ動き続けるだけで、いつまでも答えを出さない。

上司に示された期限が迫るころ、チューリングが解読の重要なヒントを見つけ、ボンベがついに答えを出す。それがさきほどのシーンだ。

エニグマの解読は、戦争終結を2年早めたとされている。

そのチューリングの肖像が、イギリスの新50ポンド紙幣に採用されることが決まった。イングランド銀行が7月19日に公開した新紙幣のデザイン案には、39歳当時のチューリングの写真が使われている。

チューリング公開された英50ポンド札のデザイン。22万件を超える肖像案から選ばれた Photo by Getty Images

カンバーバッチとあまり似てはいないが、実直なまなざしと、やや頑固そうだが微笑む寸前にも見える口元にどこか親しみを感じる。

紙幣の素材はポリマー(プラスチック)製で、2021年から流通予定だ。これでイギリスの紙幣はすべてポリマー製になるという。

予言的な言葉が記される

50ポンド紙幣を飾る人物の選定は2018年から始まった。「科学分野で業績のある故人」を対象に、一般の人々から候補者を募り、集まった22万件を超える提案のうち適格とされた989人の科学者から、専門家の委員会が最終候補者を選んだ

昨年亡くなった物理学者のスティーブン・ホーキングや、インド出身の数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャン、DNA構造の発見に貢献した女性化学者ロザリンド・フランクリン。チューリングを含む12人の最終候補者の顔ぶれは実に多彩だ。

12人の中から最終的にチューリングを選んだ、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、チューリングを「現在のわれわれの生活に大きな影響を与える研究をおこなった、非常に優れた数学者」とたたえている。