元経済ヤクザが、フェイスブック通貨・リブラを「テロ」と見る理由

狙いは「世界共通通貨」への下克上だ
猫組長(菅原潮) プロフィール

国家と企業、どちらの暴力が勝つか

翻って現在、インターネットとスマートフォンが世界中に普及した環境下において、「情報」が一種の「暴力」の役割を果たしていると言えるだろう。

ベルリンの壁崩壊には、初期インターネットの発達によって、当時の共産主義国に西側の情報が大量に流れたことが寄与している。湾岸戦争(1991年)は、たった1枚の「油まみれの鳥」の写真で正当化されることとなった。アラブ社会で同時多発的に起こった革命「アラブの春」は、Facebookが原動力となった。いずれも「情報」が社会変革を駆動したのだ。

「リブラ」と「ドル」の戦いの結末は、「情報」と「米軍」どちらの暴力が強いのかという点に収斂すると私は考えている。

インターネットは、元を辿ればアメリカの軍事技術を民間に開放したものだ。国境のないサイバー空間で情報によってカネを生み出し、莫大な富を築いた「シリコンバレーの住人」の中には、ペイパル創業者のピーター・ティールをはじめ、国家を含むあらゆる権力に縛られたくないという「リバタリアニズム」を信奉する者が多い。既存通貨の枠組みに挑戦し、ぶち壊すことも辞さない「仮想通貨」の背景にあるのも、この思想だ。

現在では、「新時代の暴力」たる「情報」を、こうした思想を奉じる企業群であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が寡占的に所有している。Facebookが世界中央銀行の創造に着手したことは、ある意味で必然的な事態といえる。

「仮想通貨」を巡る議論とは、紆余曲折を経てたどり着いた安定的金融システムと、「リバタリアニズム」の思想闘争でもあるのだ。「リブラ」に対して国際的な批判が集まることをFacebookが予想できなかったはずがない。それでも彼らが退かないのは、これが思想に基づく国家と企業との権力闘争であるからに他ならない。

ところで、7月11日にトランプ大統領は「(Facebookが)銀行になろうとしているのであれば、銀行の規制の対象となる必要がある」とツイートしている。この発言の真意は、「アメリカのための『リブラ』であれ」という意味だ。

拠点を創設するなら金融自由国家のスイスではなく、ニューヨークに。基軸通貨たるドルを食うのではなく、ドルを強化するためのツールにせよ。そしてアメリカに利益をもたらせ――自国の利益のためなら躊躇することなく暴力を行使する、貪欲な国家アメリカの素顔を、私はこの発言から感じ取っている。

Facebookはアメリカの暴力に屈して、みかじめ料を払い続けながら安全な運用を続けるのか、それとも……元経済ヤクザの私はいま、すでに開戦したFacebookとアメリカの「戦争」の趨勢に注目している。