元経済ヤクザが、フェイスブック通貨・リブラを「テロ」と見る理由

狙いは「世界共通通貨」への下克上だ
猫組長(菅原潮) プロフィール

「リブラ」が孕む巨大なリスク

ところが、国際社会が積み上げてきたこのAML/CFTの取り組みを「ご破算」にするツールが、フィンテック(金融技術)によって生み出される。それこそが、ビットコインをはじめとする「仮想通貨」だ。

17年、私は3BTC(ビットコイン)を台湾の知人にテスト送金してみた。当時の1BTCの値段は約100万円(約9350ドル)だったが、約300万円(約2万8000ドル)を一瞬にして海外へと届けることができた。先の香港の例を見てもわかる通り、BTCはAML/CFTを無効化するために極めて有効な資金移転方法ということだ。

結果、「仮想通貨」は、世界中の黒い経済人たちの愛用するツールと化した。「億り人」なる「投機家」連中を誕生させたことなどは、あくまで「副産物」であり、仮想通貨は黒いマネーの「送り人」たちの恰好のツールとなったわけだ。当然この事実は国際社会で「問題」となり、18年のG7で仮想通貨規制が求められることとなった。

その危機感はいまも続いており、今回の財務大臣・中央銀行総裁会議では「金融技術革新がもたらすリスクと機会をモニターする」という共同宣言が出され、G20大阪サミットではFATFによる仮想通貨に対する新たな「監督ガイダンス」が承認されている。

「仮想通貨」の登場によって、世界の金融規制政策は、利便性と安全保障の両立を目指す新たなステージに入ったということだ。

ところが、2つの「G20」の狭間の18日、Facebookが独自の仮想通貨「リブラ」を開発し、20年には実用化するという野心的な計画を発表した。

国際連合開発計画の『人間開発報告書』(00年)によれば、世界人口70億人の半分にあたる35億人が、1日2ドル未満で生活をしている。また、世界銀行が11年に実施した調査によると、そのうち75%以上が正規の金融機関を利用していないという。つまり、世界の約26億人が銀行口座をもっていないということだ。

「リプラ」がターゲットにしている第一の利用者は、この26億人だ。ビジネスには金融機関が必要不可欠だが、1日2ドル未満の貧困層が、「Facebook」という金融機関を持つことで、この層に向けた新たなビジネスチャンスを生むことも期待できる。

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こう聞くと、Facebookが世界中の人に「自由な金融取引」という利便性をもたらすばかりか、貧困層を救う「慈善団体」のように思えるかもしれない。だが、常に利益を求めることを宿痾とする黒いマネーの世界に生きた私にとって、この種の「美談」や「慈善」を額面通りに受け取っていいとはとうてい思えない。

資本主義社会において、新たなシステムが生まれる裏側には必ず何かの「受益」がある。その「何か」を暴く冷静な分析こそが、次のマネーを生むチャンスだ。

「リブラ」が内包する問題は、私が行ったBTC送金でも明らかだ。リブラは9・11以降、世界が取り組んできたAML/CFTに対する取り組みと真っ向から対立し、それを破壊してしまうだろう。

現に7月10日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がアメリカ下院金融委員会で「リブラ」について「プライバシーやマネーロンダリング、消費者保護、金融制度の安定性などの点で多くの重大な懸念がある」との見解を示している。

しかし、「リブラ」のリスクはこれに留まらない。世界の通貨構造そのものの崩壊をもたらす可能性さえあるのだ。