ラグジュアリー・コンサルタントとして、特別体験や高価値を創造するための秘訣をアドバイスしている山田理絵さん。「人生は旅のスパイス」と語る彼女が、いま急成長している「ハイエンドトラベル」(富裕層旅行)の現場で感じた「発想と創造を生む新しい旅の形」とは。旅行市場だけでなく、モノづくりなどのさまざまな産業がハイエンド市場に進出するためのヒントはもちろん、次の休みをワンランク上にする旅のアイディアも。

急成長の「ハイエンドトラベル」市場

2022年までに1兆1540億ドル、日本円にしておよそ127兆円という、年平均6・4%もの成長が予測されているグローバル市場があります。

これは、アメリカのアライドマーケットリサーチ(Allied Market Research)が2016年に発表したもので、その利益の66%をアメリカとヨーロッパの市場が占めています。日本の国家予算が101兆4564億円(2019年)。その約1・25倍に相当する規模です。いったい何の市場か、おわかりでしょうか?

それはこれからご紹介する「ハイエンドトラベル」なる富裕層旅行市場なのです。日本では富裕層旅行、世界的にはラグジュアリートラベルなどと呼ばれるこの市場ですが、ここではラグジュアリートラベルの中でも特にトップエンドのマーケットを「ハイエンドトラベル」と呼びます。

ハイエンドトラベルを好む趣味のよい、豊かな人生観を持った旅の上級者たちが求めるもの、そして彼らが自分を高めてくれると感じる体験とは一体何なのか、ご紹介したいと思います。

訪日外国人は「モノ」より「コト」を求めている

日本政府は、2020年までに海外からの観光客によって8兆円の売り上げを目指すというインバウンド政策を掲げています。

観光庁は、訪日外国人の旅行需要が、「『モノ』消費から『コト』消費に移行している状況を踏まえて、体験型観光による消費を促していくことが必要」との課題を掲げ、「『楽しい国 日本』の実現に向けた観光資源活性化に関する検討会議」で議論を重ねています。

この検討会議でも、高い売り上げ目標を達成するために、富裕層をターゲットに置くことが強化策として挙げられています。グローバルリーダーとして活躍している人の多くが富裕層ですが、彼らのニーズを満たす質と単価の高い観光商品を作り、日本のブランドを確立していくことが求められているのです。

しかし残念ながら、グローバルリーダーが求める旅のニーズを感覚的に把握し、プロモーション政策やコミュニケーションの設計をし、訪れてもらう都市の魅力を高めることができる専門家がほとんどいません。

なぜなら「人生を楽しむ」という意味で、世界のグローバルリーダーのライフスタイルに日本が大きく後れを取っており、彼らが行っているハイエンドトラベルを身を以て経験している人が未だ少ないからです。大前提にある「社交シーンに精通した」英語人材が大幅に不足していることも大きな懸念の一つです。

また、ラグジュアリートラベル・フェアへの出展や、自治体や事業者との意見交換を重ねる中で感じたことは、国内では「富裕層」という言葉に惑わされ、彼らの実態がよくわからないまま、さまざまな富裕層向けインバウンドの企画検討が進んでいるということです。

ザ・ペニンシュラ香港の最上階にあるレストラン「フェリックス」のシェフにインタビューをする著者。ハイエンドトラベルのキラーコンテンツである食にも、味だけでなく心動かされる要素が求められています。