今、アメリカで大きく盛り上がる「Woke Capitalism」とは何か

「平等」を求める人々と企業の動き
池田 純一 プロフィール

キャパニックの真意

そのキャパニックの指摘によって、Nikeは、独立記念日である7月4日に向けて用意したベッツィ・ロス・フラグ(建国時の13州を模した13の星のある国旗)をかかとにあしらったシューズの販売を取りやめた。そのNikeの決断に対して、再び共和党の政治家たちから激しい反論が加えられた。

キャパニックの反対理由は、ベッツィ・ロス・フラグが「奴隷時代を想起させるから」と伝えられていたのだが、それでは、なかかなかその意図は通じにくい。

確かに、アメリカ13州が独立戦争を戦った時は、13州の全てで奴隷制が採用されていた。だが、キャパニックの真意はそこにはなく、より具体的に、ベッツィ・ロス・フラグという旗が、白人以外の排斥を求める「白人国家主義者(white nationalists)」たちが特別に崇める対象となっているためだ。

〔PHOTO〕gettyimages

つまり、ベッツィ・ロス・フラグとは、一種の「犬笛(dog whistle)」的な表現なのである。

これは犬笛の音が犬の耳しか聞こえない事実から取られたもので、一般に流通している言葉を使うため、公けの場で普通に使うことができるが、そこで使われている表現は同時に、特定のグループの間にだけ伝わる特殊な意味を持つ、そのようなダブルミーニングの表現のことをいう。一種の暗号だ。

政治家が特定の支持グループに向けたメッセージを送るために使い分けるもので、そのようなダブルミーニングを持つ言葉を使って、差別を差別として一般には悟られないようにしながらも、公然とその差別の隠語を用いる政治を「犬笛政治(dog-whistle politics)」と呼んだりする。

 

ベッツィ・ロス・フラグとは、そのような「犬笛」的表現の一つであり、キャパニックとしては見過ごせない。Nikeもそのように、自分たちのブランドイメージを担っている人物から指摘されれば否定できない。なにしろ、キャパニックが登場して昨年公開された新しいブランドメッセージによって、Nikeは売上を急増させていたからだ。

もちろん、彼の主張に賛同できないNikeファンの中には、Nikeのシューズを燃やしたりするような過激な反応を示す人もいた。だが、そのような人たちはNikeの顧客でなくともよい、というのが、創業者フィル・ナイトの判断だった。その意味でNikeは社会正義の側に立った。Wokeを選択した。

キャパニックにしてもラピーノにしても、彼らの活動は、ときにナショナルな存在とかかわらざるを得ないアスリートの中から、そのナショナルな存在とアスリートとの関わり方を再定義しようとする動きにも見える。国家に楯突いているのではなく、あくまで現行の政府に反抗する、という立場だ。本人たちの意識の中では、愛郷的(patriotic)であると自己認識している。昔あったような国威発揚のための奉仕を当然視される「ナショナル・チーム」のような捉え方はしていないということだ。