深夜のアルバイトでしのぐ

一方で、2度目の結婚生活はあまりうまくいかなかった。事情は承知して結婚したはずなのに、妻は前妻の子どもたちに養育費を払うことに難色を示したのだ。

それでも結婚生活は10年ほど続いた。離婚になったのは、ある女性から透さん宛てに送られた仕事がらみのお礼状が、家に届いたことがきっかけだった。妻がその女性と透さんとの仲を疑い、女性を攻撃したのだ。もちろん何も関係のない女性だった。それが決定打となり、透さんは妻に離婚を申し出た。条件が折り合わず双方とも弁護士を立てるなど大変だったが、なんとか離婚成立。養育費として月15万円を払うことになった。

「給料は悪くはなかったけれど、それでもサラリーマンにとって最大で月40万円は本当に大変でした。深夜に会社に内緒で工事現場のアルバイトをして乗り切ったこともあります。バイト代でも足りなくてもうダメだと思ったとき、ふと眺めた新聞にサッカーくじの当選番号が出ていた。そういえば買ってたな、と思って確かめたら1等! 1等っていっても何百万も当たったわけじゃなくて、なんとぴったり40万円。思わず『神様ありがとう』と呟きましたね」

なぜここまでして払い続けるか

養育費は当然の義務だとはいえ、25万円~40万円とは相場以上だ。給料が振り込まれるたびに、ほとんど養育費として飛んでいく。海外出張に出かけなければならないのに全財産が5万円しかなく、事情を話して上司にお金を借りたこともある。それでも透さんが高額の養育費を払い続けたのは何故なのか。

「だって、たったの数万円で生活していけるわけないじゃない。これまで専業主婦だった女性が子どもを抱えて、いったいいくら稼げるのか。自分と血のつながった子が苦しい生活を強いられても平気だなんて、俺からしたら、養育費を払わなかったり、出し渋ったりする奴のほうが信じられませんね」

もうひとつ、理由がある。女性はいくら能力があっても、今の日本で男性同様に稼ぐことはむずかしいと徹さんは身をもって感じている。実は透さんの実家は貧しく、4人きょうだいのうち姉が最も優秀だったが、下の弟たちを大学にやるために自分は大学を諦めて就職してくれた。就職先でも姉はまわりの男性に比べて格段に仕事ができたが、女性だということで出世はできなかった。女性はいまだ経済的に不利だという現実を徹さんは目の当たりにしてきたのだ。

透さんの根底には、女性や子どもにとってのスーパーマンでありたいという思いがある。求められたら、応えたい。俺にはその力がある、あるはずだ。苦労して自分をケアしてくれた姉への恩返しの想いもあるのかもしれない。

しかし、3度目の結婚をしてようやく気づいた。全員を幸せにすることは無理だ、これからは一人を幸せにしよう。

3人目の妻との間に子どもはいない。子どもは欲しいが、恵まれない。しかし、夫婦仲はとてもよく、先日は結婚10年目のお祝いにグアム旅行へ行ってきた。
最初の結婚で生まれた2人の子どもたちと妻とは交流があり、妻が企画した還暦祝いには、サプライズで子ども2人が登場。透さんはうれしさに言葉も出なかった。

全員を幸せにしようと思っていたときは誰も幸せになれなかった。しかし少しでも自分ができることをしようと養育費を払い続け、いま一人を徹底的に幸せにしようと決めたら、こうして幸せが増えてきた。透さんはグアム旅行で真っ黒に日焼けした顔を、ほころばせた。

「本当にどうしようもない男だったと思う」透さんは言う。善悪をひと言でいうのは難しいが、それでも透さんは、授かった命に対して、彼なりの愛を持って力を尽くしてきたと言えるのではないか。誠意を持って払い続けたこと、それが今の幸せにつながっているようにも感じる Photo by iStock