このほど、新著『ファーウェイと米中5G戦争』を上梓しました。
この本を書いたきっかけは、21世紀の世界の趨勢は、アメリカと中国のパワーバランスによって決まり、その2大国のパワーバランスに大きな影響を与えるのが、5G(第5世代無線通信システム)の覇権の行方であり、さらに米中どちらが5G覇権を取るかは、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)の状況によって決まってくるからです。
つまり、一企業の浮沈が、21世紀の趨勢を決めると言っても過言ではないのです。
こういった例は、おそらく世界の歴史に前例がないと思います。それくらい、ファーウェイという企業の重要性が増しているのです。
まだ記憶に新しいことですが、昨年末に、ファーウェイの創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)CEOの長女・孟晩舟(モン・ワンジョウ)副会長が、カナダのバンクーバー空港で電撃逮捕されたことで、「ファーウェイ・ショック」が日本を包みました。
今年5月には、アメリカ商務省がファーウェイを「エンティティ・リスト」(制裁対象リスト)に入れたことで、「P30シリーズ」の新型スマホの発売が延期されるなど、さらに大きな「ファーウェイ・ショック」が起こりました。
その後、6月末に大阪G20(主要国・地域)サミットに参加したドナルド・トランプ大統領が、記者会見で「ファーウェイを一部容認する」と発言。しかし、今月に入ってワシントンでは、賛否両論渦巻いていて、いまだ結論が出ていません。
21日に首相官邸を訪れたジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官は再度、日本側に「ファーウェイ排除」をプッシュしたものと思われます(本命の話は、自衛隊のホルムズ海峡覇権問題だったはずですが)。
ブルームバーグの報道によれば、トランプ政権は7月22日に、アメリカ国内のテクノロジー企業の幹部たちをホワイトハウスに招き、ファーウェイとの取引再開を巡る問題を協議するとしています。
マイク・ペンス副大統領を中心としたホワイトハウスの「軍事強硬派」、それに連邦議会の対中強硬派は、「ファーウェイを世界から追放する」ことを唱えています。しかしアメリカのテクノロジー企業は、ファーウェイに部品や権利などを与え、莫大な利益を得ているため、ファーウェイとの取引を止めたくない。
当のトランプ大統領はと言えば、何より対中貿易赤字解消を優先させたいという「通商強硬派」のため、「ファーウェイを潰したい」とまでは考えていません。というより、そんなことはどうでもよい。
ただ、アメリカの覇権が中国に奪われるのは避けたいし、シリコンバレーがあるカリフォルニア州は、「政敵」民主党最大の大票田のため、民主党を利することもやりたくない。その心情は、大変複雑と思います。