障害児の親は「働きやすい環境」を望めないのか

「僕は、年収が下がってもいいとは思えないです。わが家は、今よりも年収が下がったら、妊娠前に買ってしまったマンションの住宅ローンが払えません。母親は専業主婦が一般的で、父親には年功序列制で収入の増加が約束されていた時代と今では、障害児育児も親が求めるものが変わってきていると思います」

出生前診断でダウン症と確定したら9割の人が産むことをあきらめている事実に対して、直人さんはこう言う。
「子どもに障害があっても親が安心して働き続けられるようになったら、もっとたくさんの人が妊娠継続を選ぶはずです」

その後、筆者も調べてみたが、「障害児を持つ母親の就労」に対する注目度はまだまだ低いことがわかった。障害児持つ母親の就労率は1割という報道もあるが、出典は、障害者・障害児の親たちが平成初期に実施した調査だった。国は、障害児保育の実施施設数、預けられている子ども数だけを調べていて、その数値は増加していた。だが、時間制限など保育内容の詳細については調査していなかった

保育内容は、自治体によって、また園の方針によって違い、それがまた、実態を見えにくくしている。

ダウン症児を育てている他の母親たちに聞いてみると「うちは健常児と同じように預かってもらえるので、心強い」という方もいた。

だが、また他の母親は「やはり保育時間は短いです」と言った。通常保育は朝7時から始まり延長すれば夜8時まで預かってもらえるが、その母親が預けられる時間は朝9時から夕方5時までに限定されていて、3歳までは土曜保育も受け入れてもらえなかった。この母親は夫婦で飲食店を営んでいたので自分で迎えに行くことができたが「おじいちゃん、おばあちゃんが近くにいない核家族で会社勤務の人は、本当に大変だと思う」と言った。

本来は、出生前診断でわかる障害も含めて、障害児の親と健常児の親は、働く権利において平等のはずだ。実態把握と、改善への取り組みが早く始まってほしいと思う。
 

田口さんと香織ちゃん。出生前診断という技術はあるが「35歳未満の妊婦は対象外」などの規制があって受けられない人も多いし、「命を守る」と決める人もいる。障害児を出産した夫婦が、「安心して共働きできる環境」を求めるのはおかしいことだろうか 撮影/河合蘭