障害児が受けられる「保育サービス」の壁

しかし、いよいよ沙織さんが職場復帰をする時期がやって来た。香織ちゃんは幸運なことに認可の保育園には入れて、加配の先生がついてくれることになったのだが、ひとつ困ったことが起きた。

障害児は延長保育ができなくなったので、短時間なら預かります、と言われたんです。以前は延長保育ができていた園なのに、加配の先生がいる間しか預かってもらえないという規則ができたと言われました」

香織ちゃんは、朝は通常の保育より1時間遅い時間に登園しなければならなかった。そして夕方は、通常は18時半まで延長保育が可能なのに、香織ちゃんは16時半にお迎えに行かなければならない。

沙織さんは通勤時間が1時間かかるので、育児・介護休業法による時短勤務(短時間勤務)の制度を使っても、1時間だけ、どうしても間に合わない。
ここで直人さんは自分の育休の社内規定を調べてみたが、出産から時間が経ちすぎているため取得不可能だった。

自治体にも、誰かが障害児のお迎えを親にかわって引き受けてくれたり、親が帰るまで香織ちゃんと一緒にいてくれたりするサービスはなかった。住民同士の助け合いでさまざまなニーズに対応してくれる自治体のサービスとしては「ファミリーサポート」があるが、ここも、ダウン症児をみてくれる人はとても少なく、時間が合う人は見つけられなかった

両親も遠方にいて頼れない二人は、途方に暮れた。

1日1時間の谷間を埋めるために月2万円

結局、自治体が障害のある成人や老人のための福祉活動をおこなっているNPOなどとつないでくれて、この1時間の問題は、何とかなった。でも、制度上、香織ちゃんをピックアップをする人と、家で香織ちゃんと一緒にいてくれる人は違い、それぞれ別の組織からきている。このための費用は、月額にして約2万円だ。

「障害児を受け入れてくれるベビーシッターさんも、この地域にはありませんでした。何をしようとしても『ダウン症があるから』というだけで、受けられる育児サービスが限られてしまうんです」
  
直人さんは、先日、ダウン症の子どもをみるために仕事を変えたという人に出会った。そのご夫婦は「この子が生まれてから価値観が変わったから、今は仕事やお金より家族が大事」と言っていたという。

直人さんは、そうした話を聞くたびに、どうしても、もやもやしてきてしまう。子どもに障害があったら、親は仕事をあきらめて療育や通院に子どもをつれていくのがあるべき姿なのだろうか。