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昭和を代表する名脇役…怪優・殿山泰司「自称・三文役者」の美学

大友良英×新藤次郎×田口トモロヲ

酒とジャズとミステリー小説、そして何より自由を愛したタイちゃんは、いまも日本人の心に残る名バイプレイヤーだ。そんな彼の天衣無縫な人生を振り返る。

殿山泰司(とのやま・たいじ)
1915年、東京都生まれ。俳優、エッセイスト。「お呼びがかかればどこへでも」をモットーに「三文役者」を自称して、様々な映画に脇役として出演。独特な風貌や巧妙な演技から、個性派俳優として幅広く活躍した

「何もしない」凄み

田口 元祖バイプレイヤーと名高い殿山泰司さんが亡くなったのが'89年4月ですから、もう30年も経つんですね。

新藤 トモロヲさんには、父(映画監督の故・新藤兼人氏)が殿山さんの生涯を描いた映画『三文役者』('00年)に出てもらいました。トモロヲさんは、もともと殿山さんの熱烈なファンなんだよね。

田口 はい。きっかけは、中学生の頃に見たドラマ『五番目の刑事』('69~'70年)です。まず、テレビにそぐわない風貌の人だというのが第一印象でした。彼の不思議な顔の力に、胸が妙にざわついたのを覚えています。

大友 たしかに、彼が画面に映るだけで雰囲気が一気に怪しくなりましたね。僕が殿山さんの名前を初めて知ったのは、ジャズの評論の書き手としてでした。

そのあと、ドラマでいつも見ている禿げ頭の脇役が、あの殿山泰司さんと気づいて、ますます好きになったんです。大げさではなく昭和の日本人で彼の顔を知らない人はいないでしょう。

田口 権力者や悪人の役もあるけど、彼が演じるのは市井の人や庶民の役が多かった。周りに迷惑をかけるけど、なんか不思議と憎めない男。「憎みきれないろくでなし」をやらせたら、日本一です。

 

新藤 殿山さんは、父と家族ぐるみの付き合いでした。正月になると必ず家に来て楽しませてくれた。トランプの相手もしてくれるし、急に「踊ろうか」と言ってダンスをする不思議な人でした。

ただ、後に私自身が撮影現場に出るようになって感じたのは、他の人には代えられない唯一無二の役者ということですね。

田口 役者としての最大の特徴は、「何もしない」こと。佇んでいるだけで作品の品格が上がるし、厚みが出ました。大島渚監督が生前「(作品に)あの顔が欲しい」とおっしゃっていたのも、よくわかります。

バイプレイヤーとして歩んだ歴史が、顔に刻まれているんです。色んな役を演じているはずなのに、そこにいるのは殿山泰司以外の何者でもない。