「乙武義足プロジェクト」が進行している。乙武氏は身体の三重苦と闘いながら歩行練習を続け、義足のプロフェッショナルたちがそれを支えている。
「このプロジェクトに『義足のプロ』は参加しているが、『
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「乙武さん、腰、痛いですよね」
12月19日。よく晴れた日の朝、ひとりの理学療法士が遠藤氏に伴われてわが家にやってきた。内田直生。25歳。
「おはようございます!」
人当たりのよい笑顔で、元気いっぱいに挨拶をする姿に好感が持てた。だが、大学生と言っても通用しそうな若々しさ。経験もないだろうし、だいじょうぶだろうかと心配になったが、遠藤氏の人選を信じるしかない。
20分ほどストレッチを受けたあと、いよいよ義足の歩行を見てもらった。これが驚いた。
「乙武さん、腰、痛いですよね」
歩き始めた途端、内田氏は言いあててみせたのだ。
「そうそう。腰の痛みと、背中の張り。義足の練習を始めるまではこんなことなかったんだけどね。あと、身体がLの字に固まってしまっているらしく、どうしても前のめりになって倒れてしまうんだ」
そう答えると内田氏は、真剣な表情で私の目を見つめた。
「乙武さん、そうしたら、ふたつだけ意識して見てください。まず身体の中に棒を入れられて、その棒が上へ上へとひっぱられるイメージを持ってください。次に、いままでは前に体重を移動させて歩くイメージを持っていたと思いますが、それだと前のめりに倒れやすくなってしまうので、試しに身体を横に振るイメージで歩いてみてください」
まるで魔法にかかった気分に
言われたとおり、身体の芯を意識して背筋を伸ばしてみる。ペンギンが歩く姿を思い浮かべながら、重心を左右に振る感じで前に進んだ。するとどうだろう。それまでは一歩ごとに前に倒れそうになったのに、ずっと安定した姿勢を維持できるではないか。
「これはすごい!」
まるで魔法にかかったような気分だった。
転ばない! 身体が前に倒れない!
平行棒の外で歩いてみた。もちろん転倒することへの恐怖感は高まったが、ふたつのイメージのおかげで、前ほどガチガチに緊張することはない。リビングのフローリングの上を歩きながら、私は大きな前進だと感じていた。
内田氏も喜んでくれた。
「乙武さん、抜群の感覚の持ち主ですね。言ったことをすぐに身体で表現できる人なんて滅多にいません」
論理的な説明と、やる気を出させるひと言。内田氏は私のツボを心得ている。そう、私はほめられて伸びるタイプなのだ。
「いやあ、内田くんが来てくれて、なんだか希望が湧いてきた」
「よかったです。僕のことは、気軽にウッチーって呼んでくださいね」
こうしてウッチーは、乙武義足プロジェクトの新メンバーとなった。