2019.07.28
# AI # 関数

「教えてやる、戦争をなくすのは簡単だ」話題の漫画が試みていること

『アルキメデスの大戦』原作もすごい!
河合 莞爾 プロフィール

櫂直はAIそのものである

「数字は噓をつかない! 数字こそが真の正義!」
「数字が真の力を表す。私はそう信じています」

(三田紀房『アルキメデスの大戦』より、主人公・櫂直の言葉)

話は『アルキメデスの大戦』に戻る。

架空の主人公・櫂直は、作者から「アメリカとの開戦を回避せよ」という命題を与えられる。そして櫂直は、超人的な計算能力によって「ビッグデータをもとに自ら学習し、推論し、最適解を導き出す」ことにただ専念する。

もうお気づきだろう。櫂直は人間の姿で描かれてはいるが、彼の行動はAIそのものなのだ。

そしてAIであるからこそ、櫂は純粋なシミュレーターとして機能しているのだ。そう考えれば、彼が「数学者」なのも必然だとわかる。AIとしての機能を果たすために必要な能力、それが「計算」だ。

つまり櫂は、人間の姿をした高性能なコンピュータなのだ。ただ、戦争を止めるだけのために生まれたコンピュータだ。

本質がAIであるがゆえに、櫂直という主人公には個人的な思想信条がない。宗教も道徳もないし、夢も理想も存在しない。友情や愛情さえも持たないように見える。ただ、「戦争回避」という命題を達成しようという、純粋で揺るぎない意志があるだけだ。

Illustration by Getty Images

そして何度も申し上げている通り、AIは他のどんな職種よりも「組織のリーダー」に向いている。それは国家という組織でも同じだ。「ビッグデータをもとに自ら学習し、推論し、最適解を導き出す」というAIの機能は、政治家に求められる作業そのものなのだ。

何より、政治家がAIであれば、独善、嫉妬、怨恨、差別、宗教、民族といった要素から自由であることができる。そしてこれらの要素こそが、戦争という不毛な行為に人間を駆り立てるものの正体だ。

たとえば、A国とB国が険悪な状態に陥ったとしよう。両方の元首が人間だったら、交渉は平行線をたどることとなり、最悪の場合は開戦に至るだろう。

しかし、両国の元首がどちらもAIだったらどうだろうか?

2つのAIは双方のビッグデータを共有し、学習し、推論し、最適解を導き出そうとするだろう。つまり「もし両国が開戦したらどうなるか?」というシミュレーションを開始し、結果を導き出そうとするだろう。

2つのAIは、それぞれの国に何兆円の損害が生じるのか、何百万人の命が失われるのか、それによって得られるものは何か、当初の目的は何%達成できるのか、その答えを瞬時に弾き出すだろう。

そして戦争とは互いに不利益なものであり、絶対に回避すべきものだと結論付けるだろう。『アルキメデスの大戦』の主人公・櫂直のように。

さらに両国のAIは考える。人間は動物なので、数字だけでは未来をリアルに実感できない。だから、両国が開戦した場合に何が起こり、どういう結末を迎えるのかを、人間たちの目にリアルに生々しく見せてやる必要がある──。

そして2つのAIは、それぞれの国に向けて、リアルな戦争のシミュレーションCG映像を作る。戦争によって皆の財産が奪われるのを、大勢の人々が血を流して死んでいく様子を、都市や自然や貴重な文化遺産が破壊され、燃え尽き、灰になっていく過程を克明に描写し、人間たちにリアルに生々しく体験させるために。

そして人間たちは、ようやく戦争の不毛さを実感し、戦争の実行を回避するために動き出すだろう。さらに2つのAIは、国際法に基づく戦争以外の解決方法、つまり「最適解」を導き出し、両国の国民に提示する。その解決方法は、きっと誰もが納得せざるを得ないものだろう。

「教えてやる、戦争をなくすのは簡単だ」

漫画『アルキメデスの大戦』は、我々にそう言っている。そう、この世から戦争をなくすのは簡単だ。すべての国の元首をAIにすればいい。

だから、世界の恒久平和を達成したいのであれば、我々がやるべきことはたった一つだ。「国家元首を任せるに足りるAIを開発する」、それだけだ。

そんなAIを作るのは不可能に近いだろうって? では、日々ニュースに登場する世界の国家元首たちを眺めてみてほしい。彼ら程度の能力を持つAIなら、案外早く生み出せそうな気がするのだが──。

アルキメデスの大戦

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