総理官邸(CC BY 2.0 Photo by atgw)

映画『新聞記者』本物の記者・内調関係者が語る「いい点と悪い点」

これでは『永遠の0』に勝てない…

東京新聞の望月衣塑子記者による書籍が「原案」の映画『新聞記者』が話題になっている。菅義偉官房長官の会見での質問が賛否を呼んでいる望月記者だが、肝心の映画の内容についても同様、賛否が分かれているようだ。

ストーリーは、政権の維持を図る情報機関・内閣情報調査室(内調)と、政府の陰謀を暴こうとする新聞記者の対決を描くというもの。「政治を真正面から取り上げる映画が最近少ないだけに、評価に値する」と歓迎する声がある一方、「陰謀論だ」「全くの取材不足」という批判もある。では、本職の記者や内調関係者はどのように本作を見たのか?

 

気になる「取材不足」

まず、映画のあらすじを簡単に説明すると……。

東都新聞社会部の若手記者、吉岡エリカ(シム・ウンギョン)のもとに、総理肝いりの大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。一方、外務省から内調に出向中のエリート官僚の杉原拓海(松坂桃李)は葛藤していた。与えられた仕事が、政権に弓を引く人々を陥れるための情報操作や、マスコミ工作ばかりだったからだ――。

なお本作には、望月記者本人、元文部科学省事務次官の前川喜平氏、元ニューヨークタイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏、新聞労連委員長の南彰氏も劇中での討論番組という形を通じて出演している。

本作で一貫してクローズアップされるのは、「マスコミやSNSを利用して、国民と世論をコントロールしようとする内調」というイメージだ。

例えば内調職員が、ツイッターでネット右翼のアカウントを偽装し、政権に敵対する者への誹謗中傷を拡散するシーンが描かれる。薄暗いオフィスで大勢の職員がパソコンに向かい、ひたすらツイッターをしている不気味な場面だ。

そもそも内調とはどのような組織なのか。

内閣の直轄組織である内閣官房に属する情報機関で、職員は250人程度とされる。新聞やテレビ、雑誌などの公開情報を精査したり、識者や関係者との情報交換を行ったりして、国内外の情勢分析を行うのが主な任務とされる。重要な情報については、内閣情報官を通じて総理大臣をはじめとする官邸幹部に報告する。

では実際に、映画に描かれていたようなネットを使った情報操作は行われているのか。元内調職員に聞いてみた。

「まず、ありえません。というのも250人の職員は国内、国際、経済など各分野に分散配置されていて、とてもではないですが、1日中パソコンの前に座って世論操作をやっているヒマはないからです。

それに、映画に出てくる杉原は外務省からの出向ですが、外部の人間にそんな怪しい任務を任せたら、あっという間にリークされて週刊誌ネタになりますよ(笑)。今でもキャパが足らず、本業の分析ですら追いつかないくらいですから。

大体、ネトウヨのアカウントに数十人が必死で書き込むだけで、世論操作なんてできるんでしょうか。そんなに簡単に誘導できるなら、逆になぜ今、政権批判アカウントがあんなに活躍できているのか。いくらフィクションとはいえ、ちょっと内調の力を過大評価しすぎかなと思いました」

この元職員は、こうも指摘した。

「内調の現場を仕切る杉原の上司が、官邸前のデモ参加者の写真に印をつけて『これを公安調査庁に渡して、経歴を洗え』と指示するシーンには違和感がありました。内調から見ると公安調査庁はライバルですし、組織としての格も対等ですから、命令できるような立場にもない。こういう細かいところが取材不足で、『新聞記者』と銘打っている割にちゃんと取材できてないんじゃないか、と言いたくなりますね」