最初に見たように、アメリカの既成勢力は、総力を挙げてリブラ潰しにとりかかった。既得権益を守るための当然の行動である。しかし、これは誠に愚かな決定であると考えざるを得ない。
アメリカにおけるこのような状況推移を見て一番喜んでいるのは、中国の習近平主席であろう。
なぜなら、リブラが広く使われるようになれば、中国からの資本流出が生じ、中国経済は深刻な危機に陥る可能性が高いからだ。アメリカの愚かな決定によって、中国はこの危機を免れることになる。
アメリカが中国の発展を阻害したいのであれば、リブラの発展を助けることによって、極めて強力な手段を得ることになる。だから、本当は、アメリカは中国に対抗するための手段として、リブラを育成するべきだ 。
ファーウェイを取り潰そうとするよりは、遙かに効果的だ。世界経済に対する悪影響もずっと少ない。それによって、アメリカは、世界経済の覇権を確かなものにすることができるはずだ。
それだけではない。この問題は、「規律によって統制される中国型の社会がよいのか、それとも個人の自由とプライバシーを最大限に尊重する社会がよいのか」という究極の選択に深くかかっている。
アメリカの基本思想から言えば、当然、後者を目指すべきだ。それによって、経済戦争で中国を潰すだけではなく、未来世界の思想を形成することになるのだ。
しかし、冒頭で見た議論は、このような観点を全く欠いている。
リブラを潰すことはできるだろう。しかし新しい金融の仕組みのすべてを完全に潰すことはできない。
前述のマーカス氏は、「われわれが行動に失敗した場合、価値観が劇的に異なる人々によってデジタル通貨が支配されることになるだろう」と指摘した。これはまったく正しい。
数年経って振り返ったとき、いまの時点での決定がいかに重要な意味を持つものだったかが認識されるだろう。