講談社社史から削除された「顧問料」の驚くべき「金額」

大衆は神である(60)

ノンフィクション作家・魚住昭氏が極秘資料をひもとき、講談社創業者・野間清治の波乱の人生と、日本の出版業界の黎明を描き出す大河連載「大衆は神である」。

『講談社の歩んだ五十年』の刊行後に開かれた、「社史編纂を試みて」と題する座談会。そこで社史制作に携わった者たちが口々に「削られて残念」と語ったのが、戦時中の顧問団の問題だった……。

第七章 紙の戦争──書かれざる部分(2)

社長にわざわざ言われては……

木村の残念がる理由は、座談会でのやりとりのつづきを読むと次第に明らかになってくる。

〈辻 (削ってくれと)社長の言う理由は、これは高木(義賢。左衛の義弟で、当時講談社の専務)さんのポケットマネーで、講談社から出ているんじゃないんだ。それをみんな知らないんだ。だから、抜いてくれ、という理由だったですね。

 笛木 そうですね。

 窪田 柳橋会談だ。

 笛木 会談ではなくて“怪談”だ。(笑)

 木村 あれで、涙をのんで、あれは出さないことにしたんだ。

 辻 あの日、「震災記念日だ」と言っていたんだ。(略)柳橋会談というのは、ずいぶんあれで解決したな……。

 笛木 大問題をね。

 木村 社長にご馳走されて、ごまかされちゃったんだ。(笑)実際、社長がわざわざ言うのに、そう頑張れなかった。

 辻 うまいよ、社長の話の持ちかけ方が。“高木さんのポケットマネー”といわれると……。

 木村 実際にそうだと思わなかったけれども。

 辻 そう大正面から言われたら、(社史に)載せるのおかしいですものね――頭いいよ。

 木村 僕は、腹の中では「嘘ついているな」と思ったけれども……。

 辻 うまい――ほんとにうまく言ったと思うんだ。

 白川 柳橋で顧問料の話になったとき、成り行きいかにと思って見ていたら、あっさりいっちゃった。(柳橋に向かう)自動車に乗るところまでは「これだけは」という顔していらしたんだけれども。

 木村 これは社長が……俺がもうちょっと身体(の状態)がいいと……へこたれて死にそうになっておったから。〉

 

だいたいの事情は察していただけたろうか。社側が削除を要求したのは、顧問団に支払われた顧問料の記述だった。省一(彼自身は昭和16年3月の時点ではまだ講談社に入社しておらず、顧問制導入に関与していない)は、顧問料は高木専務のポケットマネーから出たもので、プライベートな問題だから削除してほしいと申し入れたのである。