150年前のSNS!? 創刊直後の『ネイチャー』が超絶面白い

ダーウィンが「いいね」した日本特集
瀧澤 美奈子 プロフィール

謎の「斬首現象」?

ダーウィンもあるとき、読者投稿欄で「20年来、春になると不思議に思っている現象がある」と、読者に問いかけた。

それは、「プリムローズの花の茎が何者かによって切り取られて、地面に花が散乱している現象」だという。「私の住んでいるケント以外の地域でも同じ悪事をはたらく者がいるかどうか知らせてほしい」と読者投稿欄ユーモラスに呼びかけたのだ。

ダーウィンの質問が掲載されるやいなや、すぐに複数の読者からの反応があり(ダーウィンに直接、手紙を送った者もいた!)、1週間後には1ページの記事にまとめられた。

【写真】プリムローズの斬首現象についての論争もにぎわった
  プリムローズの斬首現象についてのダーウィンの呼びかけに、多くの一般読者からの反応があった(イギリスで春を告げる花として親しまれるプリムローズ。アリソン・アトリーの童話『どのようにして、グレイ・ラビットは、しっぽをとりもどしたか』では、プリムローズの茎を食いちぎったのはグレイ・ラビットだ) photo by gettyimages

面白いのは、「カッコウの卵」論争でもダーウィンの「プリムローズ」議論でも、あるいは他のテーマでも、「科学者ではない、一般の人が自分の意見を送っている」という点だ。

あの『ネイチャー』に、まさか素人が!? 現在ではとても考えられないことである。

「科学こそが社会をより良いものにする」

『ネイチャー』はなぜ、「社会とのつながり」を重視したのか。

当時、ダーウィンの進化論が物議を醸し、キリスト教を信じる一般大衆の信心の柱を大いに揺るがせていた。急速に経済力をつけた中流階級が、貴族に代わって発言力を増大させた時代でもあり、民主化が進み、庶民の生活も識字率も大きく向上した(イギリスの識字率は、1850年に男性70%、女性50%程度だったが、19世紀末には男女ともに90%程度まで上昇したとされる)。

このような激変の時代にあって、Men of scienceは、科学知識を「自分たち専門家だけの“安全な世界”に囲い込む」こともできただろう。

しかし、そうはしなかった。

その象徴が『ネイチャー』であり、創刊者・初代編集長のノーマン・ロッキャーとその支援者たちである。

【写真】ノーマン・ロッキャー
  ノーマン・ロッキャー photo by gettyimages

中流階級出身で、アマチュア天文家として活躍し、心の底から科学を愛したロッキャーは、「科学こそが社会をより良いものにする」と信じた。そして、社会に科学を理解してもらうことに加え、自ら(科学者や科学文化)をどう位置づけるか、ということに真剣に向き合ったのだ。

この姿勢は、現在の科学コミュニケーションの精神とも共通するのではないかと思う。