いま将棋界で起きようとしている「31年ぶりの一大事」

羽生世代が迎えた「大きな転換期」
大川 慎太郎 プロフィール

羽生世代とは誰か

私の考える羽生世代の棋士たちは次になる。

まず羽生と同学年で奨励会入会が同期(1982年12月)、かつタイトルを獲っている棋士が二人いる。これが純正の羽生世代だ。

 

森内俊之(1970年10月10日生)と郷田真隆(1971年3月17日生)の二人である。

森内はわずか16歳でプロ棋士になっているが、羽生世代の中では意外にもタイトルを獲得するのが最も遅かった。31歳の時に初タイトルとなる名人位を得ており、その後は一気に爆発。2004年には史上7人目となる三冠に輝いている。森内は長時間での対局に強く、持ち時間が最も長い名人戦では羽生に勝ち越しているほどの強豪だ。

郷田はプロ棋士になるのは19歳と羽生より少し遅れたが、デビュー後に頭角を現し、21歳で初タイトルの王位を奪取した。これは同世代では羽生に次ぐタイトル獲得年少記録で、次に紹介する佐藤よりも早かった。

3人は首都圏出身で、アマチュア時代の小学生の頃から大会で顔を合わせていた。それが40年後のいまでも盤上で激しくしのぎを削っている。他の勝負の世界でもこれはレアケースではないだろうか。

そして佐藤康光(1969年10月1日生)の存在も忘れてはいけない。羽生より学年は1年上だが、奨励会入会は同期で、当初は関西奨励会に在籍していた。

佐藤は修業時代から大器として有名で、関西から関東に移籍した際には「名人候補を東に取られた」と関西の関係者が悔しがり、また嘆いたほどだったという。

羽生、森内ももちろん奨励会では名を馳せていたが、彼らが有名になったのは、島朗(1963年生)が主宰した「島研」という研究会も見逃せない。最初は島、森内、佐藤の3人で行っており、佐藤が奨励会二段の頃だったという。

後にそこに羽生が入った。棋界をリードする強豪の3人が参加していたために島研は伝説の存在であり、「羽生、森内、佐藤」という枠組みで語られることも増えた。

佐藤は形にこだわらない独創的な作戦を採ることが多く、新手や新構想を頻繁に披露する。2019年現在も順位戦最高峰のA級で奮闘している。

森内、郷田、佐藤の3人は間違いなく羽生世代のど真ん中を行く棋士である。

他にも精鋭ぞろいの羽生世代

ほかにはどうか。

藤井猛(1970年9月29日生)は羽生と同学年で、竜王3期を獲得した強豪だ。「藤井システム」という独自の作戦を引っ提げて白星を量産し、アマチュアから絶大な人気を誇っている。

ほかにも「藤井矢倉」や「角交換振り飛車」を開発し、進取の気性に富んでいることで棋士間の評価も高い。文句なしに羽生世代に入ると思われるが、藤井が将棋を覚えたのは遅く、奨励会に入ったのは1986年。なんと羽生はすでにプロ棋士になっていた。

後に羽生とタイトル戦で顔を合わせて勝利するのだが、あまりに羽生が先行していたため、自身が羽生世代という感覚は希薄だったはずである。後にタイトルを獲得して追いついたため羽生世代に括られるが、ずっとそのカテゴリーに入っていたわけではないだろう。

丸山忠久(1970年9月5日生)も藤井と状況はよく似ている(しかし、羽生世代は9月、10月生まれが本当に多い。これは果たして偶然だろうか?)。奨励会試験に2度落ちている丸山は1985年に入会した。

プロ入りが郷田と同期だから奨励会の卒業は早かったが、それでも入会が3年遅いとなると、同世代という感覚はなかっただろう。自分の中学生時代を思い出してみればわかるが、たとえ同学年でも、ある分野で3年先を行っているというのは精神的な差が大きい。もっとも丸山もその後、佐藤から名人を奪取するなどの活躍を見せ、羽生世代に堂々と数えられる棋士となっている。

以上の6人が、私の考える羽生世代の棋士だ。

他にもいるじゃないか、という声もあるかもしれない。小説『聖の青春』が映画にもなった村山聖(1969年6月15日生)は羽生より1学年上で(佐藤と一緒だ)、奨励会入会は1年遅い。だがプロ入りは佐藤や森内よりも早い1986年で、デビューしてからも各棋戦で勝ちまくった。王将戦に挑戦はしているが(谷川浩司に敗れた)、タイトル獲得がないのが惜しいところで、1998年に29歳で早逝したのが返す返すも惜しまれる。

また先崎学(1970年6月22日生)は羽生と同学年だが、奨励会入会は1年早い。アマ時代には羽生以上の才能と称えられた先崎は才気煥発な将棋で順位戦最高峰のA級を2期経験しているが、やはりタイトル獲得がない。

ここまでは羽生より年上か同学年だが、1つ下の学年にも屋敷伸之(1972年1月18日生)、深浦康市(1972年2月14日生)というタイトル獲得経験のある強豪はいる。だが年下だし、奨励会入会も羽生たちより遅い。深浦がプロになったのは羽生より6年も後だ。「ポスト羽生世代」というほうが私にはしっくりくる。

本稿では、羽生世代の棋士を羽生、森内、郷田、佐藤、藤井、丸山の6人と定義したい。

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