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いま将棋界で起きようとしている「31年ぶりの一大事」

羽生世代が迎えた「大きな転換期」
コンピュータの将棋ソフトに焦点を当てたインタビュー本『不屈の棋士』(講談社現代新書)は、新書大賞2017のベスト10に入るなど、大きな話題を呼んだ。その著者で将棋観戦記者の大川慎太郎氏が、今度は羽生善治九段を中心とする羽生世代に関する連載を、講談社の月刊PR誌「本」8月号から開始! なぜ、羽生世代はこれほど強く、長期間にわたって活躍できた(している)のか? ここに連載第1回を特別公開!

将棋界には奇跡がある。

近年、お茶の間で話題になった藤井聡太のことではない(これからそうなる可能性は十分にあるだろうが)。

羽生善治を中心とした、羽生世代の棋士たちだ。

なぜ、彼らが奇跡的な存在なのか。それは将棋という弱肉強食の勝負の世界にもかかわらず、1990年くらいから最近まで、延々とトップを張り続けていたからである。

 

根回しや忖度などはなく、ただただ実力だけが存在する世界。力なき者はすぐに蹴落とされ、次の俊英が続々と台頭してくる。だから特定の人物や世代が長期にわたってトップを維持するのは非常に困難なのだ。だがその勝負の常識を覆してきたのが羽生世代の棋士なのである。

そんな彼らもデビューから30年が過ぎた。まだバリバリの現役とはいえ、近年ではいろいろと動きが出てきた。以前のような圧倒的な結果を残せなくなっているし、そもそも将棋だけに集中していられない状況も生まれ始めている。

勝負師として1つの区切りを迎えようとしている彼らを中心にインタビューし、羽生世代についていったん総括をしてみようというのが、連載「証言 羽生世代」の趣旨である。毎月、1人の棋士にスポットを当てて話を聞いていくが、本稿は羽生世代の総論に充てたい。

羽生世代にはどういう棋士がいるのか、どれほど素晴らしい成績を残してきたのか、そして最近は以前とどう違うのか、インタビューで彼らにどういうことを尋ねていきたいのか、などを記していこう。

スーパースター羽生善治

いきなり羽生世代と言われても、将棋ファンでもなければ全員の顔は思い浮かばないのではないか。

ただし将棋に詳しくなくても、2018年に国民栄誉賞を受賞したこの男のことはご存じだろう。

羽生善治(1970年9月27日生)。

1985年に中学3年生でプロ棋士(四段)になり、将棋界の数々の記録を塗り替えてきたスーパースターで、1996年に達成した七冠制覇は伝説となっている。もちろんいまだに塗り替えられていない金字塔だ。直近では2019年6月に将棋界最多勝となる1434勝を挙げて大山康晴十五世名人の記録を破り、大きなニュースになった。

羽生と言えば将棋界の顔であることはもちろん、最近は人工知能に関する取材なども数多く受け、「知性の象徴」になっているのがこれまでの大棋士とは違うところだ。いつもさわやかな笑顔で謙虚な姿勢を保つ羽生の存在によって、将棋界のイメージは大いにアップした。

羽生世代と呼ぶのだから、言うまでもなくこの羽生の存在が中心となる。そして世代という以上は、羽生と同学年か、もしくは近い棋士でなくてはならない。

また切磋琢磨をするという意味でも、棋士養成機関である奨励会への入会も同時期か、ある程度は近いほうがよい。そしてこれは大事なことだが、やはり強豪でなくてはいけない。時代を引っ張るのは常に強者だからだ。

そうなると、羽生世代にカウントされる棋士は限られてくる。厳密な定義があるわけではなく、人によっても捉え方は異なってくるし、読者それぞれに思い浮かべる顔は違ってもよいだろう。