毎日食べてもおいしいうどんやパスタ、味の「秘密」を科学してみた

麺の秘密は「小麦の性質」にあり!
山田 昌治 プロフィール

それにも増して驚いたのは、透明度の高いつゆであるにもかかわらずうま味が凝縮されていたことです。生まれて初めてうどんがこんなにうまいものだということを知りました。

その後社会人になって、各地のうどんを食べるようになり、地域ごとにさまざまな食感のうどんがあることを知るようになりました。

秋田で仕事をしている頃食べた稲庭うどんは、冷や麦に近い太さの麺であるにもかかわらず、強い歯ごたえに心地よさを感じました。また仕事で出向いた三重や博多で食べたうどんは、びっくりするくらい太くて軟らかな食感でした。

稲庭うどん Photo by 写真AC
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このことから、うどんは弾力性とコシのみで語られるものではなく、多様な食感の文化があるのだと考えるようになりました。

進化を経て得た小麦粉の「特異」な性質

麺という食品は、もともとは粥状だったのが、すいとん状になったのを経て、食感や料理の完成度を高めるために細長くなっていきました。これは小麦粉と水をいっしょに捏ねて得られる生地に「粘弾性的性質」という弾力性と粘り気をあわせ持つ特異な性質があることと密接に関係しています。

この性質は、小麦という植物が荒涼とした高原の砂漠地帯で進化してきたことと密接な関係があります。

小麦という植物は厳しい環境の中で、うまく水と窒素分を得て、さらに鳥獣に食べられないようにと、自らを進化させてきました。この特異な性質により、水と混ぜて捏ねると粘弾性的性質が現れ、塩基性条件下では生地が硬くなり、また栄養価としてはアミノ酸のリシンが決定的に不足しているためアミノ酸スコアの低いタンパク質となっているなど、多くの特徴をもつに至っています。

小麦粉という卑近な食品素材が、かくも深遠で不可思議な魅力にあふれるものであることを教えてくださったのは、筆者の先輩である長尾精一博士です。

長尾先生は現在もかくしゃくとして専門書を著すなど精力的に小麦や小麦粉に関わる研究を続けておられる、筆者にとっては師とも仰ぐ人物です。ここ数年、テレビ番組で麺に関するテーマを掲げると視聴率が稼げるそうで、筆者の所にも頻繁に依頼がきます。そんなときは長尾博士をはじめとする先達の書を取り出して、アイデアを練っている今日この頃です。

本書では、身の回りの食べ物にもサイエンスがあることを示しています。したがって、将来の自分を思い描いている中学生や高校生諸君にぜひとも読んでほしいと願っています。また、社会人の皆さんには、仕事帰りにラーメン店に寄った際に、小麦を栽培して日常の食としたメソポタミアの人々を思いながら麺をすするのも一興かと思います。家庭で料理をされている皆さんには、今日からでも使える技をいろいろとご紹介しています。

本書を読みながら、「麺とは何て素晴らしい世界なのだろう」と思っていただければ幸いです。