〔PHOTO〕iStock

評価、業績、達成度…数字の「測りすぎ」こそが、現代の失敗の原因だ

数字が支配する社会の「落とし穴」

目標数値によって、授乳は「ノルマ」となった

忘れもしない、あの第一子出産直後の苦しい日々。私は助産師さんからこう告げられていた。

「母乳は毎日、70×(生後日数−1)ml飲ませてくださいね」

産後の興奮状態の頭になぜこんなに難しい計算をさせるのだろう、と思いながら鉛筆を動かしていくと、生後2日目は70ml、生後3日目は140ml、生後4日目は210ml、と日に日に増大していく「ノルマ」が見えてくる。つまり、その調子で新生児の体重が増えなければならない、ということだ。うーん、そもそも一度も自分の体から出したことのない液体が、そんなに景気よく出るようになるものなのかな。

案の定、授乳はまったく思い通り進まなかった。

泣き出したと思って乳房を近づけてみてもいっこうに咥えようとしないし、それならばといったん搾乳して哺乳瓶から与えようとしても数mlしか出てこない。これじゃあ全然ノルマに届かないよ…と助産師さんが新生児の体重を測りに来るたびにびくびくしていた。

〔PHOTO〕iStock

地獄の授乳がようやくうまくいくようになったのは、生後10日ほどたった頃である。あるとき、私はようやく気づいたのだ。授乳が新生児との共同作業であることを。母乳はそもそも新生児がうまく吸ってくれないと出るようにならない。一方的に、「飲んで欲しい」というこちらの意志を押し付けてもだめなのだ。乳首をどのくらい深く咥えさせればよいのか。どのような姿勢を保てばよいのか。授乳に必要なコツと習慣と信頼関係は、二人で手探りしながら見つけるしかないのだ。

それなのに、それまでの私は「70×(生後日数−1)ml」という数字をこなすことだけを考えていた。まるでノルマを達成しさえすれば、その見返りとして子供の健康が約束されるかのように。

 

でもちょっと冷静になれば分かるように、誰だって食欲の波はあるし、その人が生まれつき持っている個性や癖がある。赤ん坊が微弱に送ってくる「そんなに咥えたら苦しいよ」とか「俺は今じっくり眠りたい気分なんだ」といったメッセージを、私は全然キャッチしようとしていなかった。

数字ばかり見て目の前の人間を見ないなんて、なんてバカな母親だろう。赤ん坊からすれば、新人研修も受けずにいきなり即戦力扱いされて鬼営業部長にせっつかれているようなものだ。