韓国から見た「慰安婦問題」
ヒロミ(仮名) 私の意見では、それは事実――実際に起きたことだと思います。そして、それに対して日本人は謝罪をしました。ですが、韓国政府はこの問題を政治の道具として利用している。韓国政府が何をしたいのかは分かりませんが、この問題を持ち出して、何かの交渉に使おうとしていると思います。彼らはこの問題を政治の道具に使っている――これが私の見方です。
グラック教授 ヒロミの慰安婦についての見方は、この問題は政治的に利用されているということですね。
(ジヒョンが手を挙げる)
グラック教授 はい、どうぞ。
ジヒョン 一般的な見方と、私個人の意見と、二つあります。韓国人が一般的に思うこととして、韓国人が大前提として求めているのは誠意ある謝罪です。ですが、彼らが本音の部分で最も求めているのは、一貫性です。
グラック教授 一貫性というのは、何についてですか。
ジヒョン メッセージや態度です。
グラック教授 誰のメッセージや態度ですか。
クリス 日本人……。
ジヒョン 韓国人が日本人の謝罪を謝罪として受け入れない決定的な理由は、謝罪があった直後に、日本政府の誰かが違うことを言うからなんです。
グラック教授 つまり、日本人の態度に一貫性がないと言いたいのですね。
(ジヒョンがヒロミとコウヘイのほうに向き直って話し続ける)
ジヒョン 一貫性がないことが、韓国人をとても混乱させているのです。
ヒロミ 政府の役人も一貫性がないことを言っているのでしょうか。
ジヒョン 首相が言うこともあります。河野談話についても一貫性がありません。日本が慰安婦に補償したと言うのであれば、慰安婦問題が歴史的事実であると認める必要があります。ですが、多くの政治家がそれとは反対のことを言っています。
グラック教授 ヒロミとジヒョン、二つの立場がありますが、両方とも国際政治に絡んだ問題ですね。ジヒョン、もう一つの意見は何ですか。

ジヒョン これは私個人の意見で、一般的な見方ではないのですが……。もちろん、日本も韓国もこの問題を政治的手段として利用しているところがあります。でも、それはある意味当たり前だと思います。政治家というのは常にそうするものなのですから。 一方で、この問題がなぜ一向に解決しないのかを考えたとき、これは別の次元でも扱わなければならないことだと思いました。つまり、慰安婦というのは、女性に対する残虐行為についての話であると。歴史認識や外交問題というより、ジェンダーの議論であると思うようになりました。
似たような残虐行為は、韓国人男性からベトナム人女性に対しても行われましたし、日本政府も日本国民に対して残虐行為を行いましたよね。慰安婦の問題は、ジェンダーや人権という、より大きなスケールで考えるべきだと思います。
グラック教授 国際関係上、政治家たちがこの問題を道具として利用しているという側面と、女性に対する残虐行為という側面があるということですね。これはとても重要な点で、そう考えているのはあなただけではないですよ。ほかに、慰安婦についての見解はありますか。
ダイスケ 事実として、それは過去に起きたことだと私も思います。そういう認識の上で、これまでにさまざまな議論に触れてきました。例えば、韓国人もベトナム人に対して同じことをした、だから……という議論。あとは、慰安所のようなところに連れていかれたのは実際には何人だったのか、という数の議論があります。
グラック教授 慰安婦の議論について、重要なポイントを指摘してくれました。南京事件でも似たような議論が聞かれます。両方のケースで、誰が誰に何をしたのか、それはなぜなのか、そして数の議論が出てきます。ですが重要なのは、ダイスケが言ってくれたように、こうした議論こそが共通の記憶をつくるのだということです。