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芥川賞は、受賞のための「傾向と対策」を知ると100倍おもしろい!

今回の候補作、すべて解説します

7月17日に受賞作が発表される芥川賞。近年の「傾向」から受賞作を予想する……なんて言うと、ちょっと不純に響くかもしれませんが、実は、賞レースは文芸について考える取っ掛かりにぴったり。なにしろ、芥川賞は「競技性が高い」と評する受賞作家もいるほど。作家はどんな「対策」を練って(あるいは練らずに)その「競技」を戦っているのか——ライターの倉本さおりさんが解説します。

芥川賞の「競技性」

「(芥川賞は)対象となる作品の範囲が明確」
「すごく競技性が高いが故に、いろんなことを言われる」

これは仮想通貨をテーマにして話題を集めた「ニムロッド」(群像2018年12月号、のち講談社刊)で第160回芥川賞を受賞した上田岳弘が受賞会見の場で残したコメントだ。この、一見「文学」とは相容れないように映る「競技性」という言葉、記者たちの興味をおおいに引いたようで、後日行われたインタビューでもしょっちゅうツッコまれていたのが印象的だった。

テレビのニュースや新聞の広告で芥川賞に触れるくらい……という方にとって、おそらく芥川賞とは「純文学の作品に与えられるすごい賞」くらいの認識なんじゃないだろうか(ちなみに私の家族や友人の多くがそうだった)。

とはいえ実際は上田岳弘のいうとおり、その候補にノミネートされるにはいくつかの条件をクリアしなきゃいけない。大作ばかりものする作家をはじめ、名実ともに認められているはずの書き手が同賞と無縁だったりする理由の一つはそこにある。

主催である日本文学振興会のホームページによれば、「雑誌(同人雑誌含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから、最も優秀な作品に贈られる賞」。これだけ読むとけっこうざっくりした規定に見えるかもしれないが、歴代の候補作を並べてみると、長さは概ね原稿用紙100枚から200枚程度に収まる範囲、掲載誌はいわゆる五大文芸誌、「文學界」「新潮」「群像」「すばる」「文藝」に集中している。

三島由紀夫賞や野間文芸新人賞といった他の純文学の賞と比べると、候補となる作品の発表形態がある程度絞られているといえるだろう。くだんの「競技性」——つまり「狙いにいく賞」といった意味合いはここから生まれているわけだ。

 

「傾向と対策」で挑んだ古市憲寿

ではノミネートされたとして、実際に受賞に至る作品はどんな基準で選ばれるのか?

これはもう、フィギュアスケートの「芸術点」(現在でいうところの「演技構成点」)のようなものを想像してほしい。基本的に文芸における選考基準は、ジャンプの数やスピンの種類といった客観的に判定できる技術的な要素と違い、「演技」や「音楽の解釈」の項目のように曖昧に伸び縮みするものだ。具体的かつ合理的な法則性を見出すのはなかなか難しい——本来なら。