膝が曲がったままで立つ

5分ほど経過しただろうか。さすがにこれ以上は出演者、スタッフのみなさんをお待たせすることはできない。私は片足が曲がっても、立つだけならできると判断して、北村に声をかけた。

「このまま立っちゃおうか」

北村に脇を抱えられ、太ももに力を入れる。いつもと違い左膝がぐらぐらするのが気になったが、腹筋にいつも以上の力を入れて、スタジオの滑りやすいフロアを踏みしめる。

「いまから松本さんと乙武さんが肩組みますよ」

スタジオの東野氏はそう言って、これから始まる「世紀の一瞬」を逃さないようにと、カメラに合図を送った。

「じゃあ、離します」

北村が、恐る恐る私の身体から手を離す。立てた。同時に、松本氏が鍛え上げた自慢の太い腕を、私の肩へと回してくれる。

うわあ、なんか新鮮!

私の顔のすぐとなりで、松本氏の声が響いた。私もおなじ気持ちだ。体温が、伝わってくる。

この写真、あとでください!

カメラが回っているのも忘れ、私はスタッフに向かってそう叫んでいた。

左膝はまだ曲がってしまう状態のままだった。だが、「あの松本人志と肩を組んでいる」という高揚感に、私はわずかでも歩く姿を見てもらいたいと思うようになっていた。

乙武洋匡公式インスタグラム(ototake_official)2018年11月20日公開より

「前に来られる?」

私は小声で北村につぶやくと、両肩を支えてもらいながら一歩、また一歩、足を前に振り出した。

ぐらぐらして、とても「歩けた」と言えるものではなかったが、一メートルぐらい前に進むことができただろうか。

「乙武さんとはよくご飯食べに行ったりしますけどね、肌と肌が触れあうってことがなかったんですよ」
松本氏がそう話すのを聞きながら、たしかになと思った。

「そうですよね。いつも車椅子に囲まれているんで」
「いつか二人で歩いて風俗行きましょうね」

私は笑いながら頷いた。すかさず東野氏から「断りなさいっ!」とツッコまれたが、“松ちゃん”とのツーショット写真は、私の宝物になった。