「予約6年待ちの寿司屋に行ってきました」。ネットでこんな風に自慢する人が増えている。だが、いくら良い店だとしても、どこか変だと思わないのだろうか。大人の「食」への向き合い方を考える。
8年前に予約した店へ
「誠に申し訳ございませんが、予約は6年後の2025年まで埋まってしまっております。お問い合わせいただき、本当にありがとうございました」
予約の電話をかけた本誌記者に対して、申し訳なさそうな様子でこう話したのは、新橋にある「すし処まさ」の大将だ。
戦後闇市があった跡地に建てられた「新橋駅前第二ビル」の地下にこの店はのれんを掲げる。同じフロアには立ち飲み店やスナックが所せましと立ち並んでいる。
日本有数の予約の取れない店として知られる「すし処まさ」の店内はわずか2坪弱で、設けられた席はたったの3席。'10年、飲み屋をはしごする合間に、寿司をつまんでもらえたらと開店した。
酒を入れても1万円という都心の寿司店にしてはリーズナブルな価格ながら、高品質のネタが評判になり、席数の少なさも手伝って、あっという間に予約の取れない人気店になったのだ。
今年、この店を訪れたばかりという羽崎修平氏(飲食店経営)はこう語る。
「8年前、つまり'11年に予約した友人に誘われて、訪問しました。
メニューは7000円のコースのみで、この値段からは考えられない、こだわりのネタが出てくる。コストパフォーマンスの良さは秀逸です」
旨くて安いなら、たしかに食べてみたくなる。だが、8年も待ってまで、食べたいと思うだろうか。
「すし処まさ」ほどではないが、四ツ谷の「三谷」、蒲田の「初音鮨」をはじめ、1年近く待ってようやく入れる寿司屋は他にもいろいろある。
グルメを自任する芸能人やカネ持ちたちは、こうした「予約困難店」を訪れたことをブログやSNSで自慢気に報告している。
予約困難店ブームの原因をライターの武内しんじ氏はこう話す。
「グルメサイトの食べログで店を選ぶことが定着し、食べログで点数の高い店にばかり、客がどんどん集中しているのです。
さらに、予約を一層取りづらくしているのは、食べログで高評価のお店ばかりを集団で訪問するグルメコミュニティの存在でしょう。
こうしたコミュニティは、まず幹事が予約を取って、そのあとで『○○の予約が取れたから、食事会をしましょう』と参加者を募る。彼らは次から次へと大人数で予約を押さえてしまうから、人気店の予約待ちがどんどん長引いていくのだと思います」