フランスの「育休充実化」政策がもたらした、予想外の「負の側面」

女性の就業率はむしろ下がった
山口 慎太郎 プロフィール

さらに、この育休制度改革は、両親だけでなく子供たちにも無視できない影響を及ぼしてることが明らかになった。育休改革直後に生まれた子供たちは、5-6歳時点で受ける言語能力の試験で、平均以下の点数を取る割合が5パーセントポイントほど増えている。つまり、育休改革は、子供の言語発達に悪影響を及ぼしてしまったのだ。

この言語発達への悪影響の背景にあるメカニズムは完全には明らかにされていないものの、育休期間を延長し、母親が自ら子供を育てることで、子供が他の大人や子供たちと接する機会が減ったせいではないかと推測されている。

心理学者らによると、生まれて最初の1年における母子関係は子どもの認知能力や社会性を育む上で重要な役割を果たしているが、子供が大きくなると、家族以外の子供や大人と関わりを持つことが発達に有益であると考えられているのだ。

この他にも、父親の労働時間が増えた結果、家庭で子供と関わる時間が減ったこと、母親が外で働かなくなったことで家計収入が減少したことなどが、子供の言語発達に対してマイナスに働いたのではないかと指摘されている。

 

日本で試算をしてみると…

このフランスの事例から得られる教訓は大きく2つある。ひとつは、あまりに充実した育休制度は、女性を家庭におしとどめ、男女の役割を固定化してしまいかねないということだ。この問題を避けるために、現在では多くの先進国で、男性だけが取ることのできる育休期間が存在する。

もうひとつは、幼い子供であっても母親だけの手で育てることが最善だとは限らないという点だ。一時保育などの形で、家族以外の大人や子供たちと接する機会を確保することは、子供の発達にとって有益だろう。

フランスの経験は、政策が意図せざる結果を生み出したという点で非常に興味深いものの、どの程度日本にとって当てはまるのだろうか。筆者は、冒頭で取り上げた、安倍首相が提唱する「育休3年制」の導入が、女性の就業に及ぼす影響を試算した2

試算のための方法は以下のようなものである。まず、過去のデータから、女性の出産や就業についての行動を分析し、その行動原理を数理モデル化した。その上で、給付金増を伴わない安倍首相流の「育休3年制」が導入された場合に、女性の出産や就業行動がどのように変化するかをコンピュータ上でシミュレートした。