中国「世界最大」三峡ダムの崩壊リスク…当局説明を信じ切れない人々

飛び交う噂、消えない不安
北村 豊 プロフィール

打ち消せない不安

ところで、メディアの記者が質問で提起した「巷の噂」とは何だったのか。話せば長くなるが、その経緯を簡潔にまとめるとこうだ。

(1)2019年6月30日23時20分、ツイッターで中国系の独立系経済学者である冷山氏(ユーザー名:@goodrick8964)が、「三峡ダムはすでに変形している。万一ダムが崩壊したら、中国の半分は人々が塗炭の苦しみをなめ、中国共産党とその一族郎党もだめになる」と書き込み、三峡ダムを写したグーグルマップの衛星写真を2枚添付した。その中の1枚目は三峡ダムの完成時期である2009年に撮影されたもので、2310メートルある堤頂は直線状で何の異常も見当たらなかったが、2018年に撮影された2枚目の写真では堤頂が明らかに歪んで見えていた。

(2)冷山氏の書き込みは多数のツイッターユーザーの注目を集め、ツイッター上で熱い討論が展開された。中国ではツイッターの使用は公式には禁止されているが、7月1日には冷山氏の書き込みがSNSの“微信(WeChat)”を通じて中国国内に伝えられたことにより、中国国内でも大きな話題となると同時に三峡ダムの安全性に関する白熱した議論が戦わされた。

(3)中国の国内世論が三峡ダムの安全性に疑問を呈していることに社会的な危険性を感じた中国共産党は、三峡ダムが危険だというデマを打ち消すべく、大量の“五毛(中国共産党に雇われたネット評論員)”を動員して、国内に三峡ダムの安全性を訴えると同時に、中国では禁止されているツイッターを通じて冷山氏に対する批判を集中した。7月5日には、人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」が、匿名の専門家によるグーグルマップの衛星写真にはリモートセンシング(遠隔探査)による歪みが生じる可能性がある旨の解説を掲載すると同時に、“中国航天科技集団(中国宇宙科学技術グループ)”が発表した人工衛星「高分6号」が撮影した三峡ダムの衛星写真を掲載して「ダム変形」というデマを打ち消した。

 

(4)7月6日には、三峡ダムを運営する長江三峡集団が声明を発表して、「堤体(ダムの本体)は十数個の独立した構造体が組み合わさっているもので、水圧が不均衡な状況下では個々の構造体の間は弾性状態となって水平移動の可能性が存在するが、その移動幅はわずか3センチメートル以下で、ダムの安全性には何ら問題がない」と述べた。これを知った中国のネットユーザーは、長江三峡集団が三峡ダムに変形があると認めたものと理解したのだった。

(5)これに先立つこと4カ月前の2019年2月13日に、日本の人気ユーチューバーである林浩司氏(チャンネル登録者数:3.9万人)が『Sanxia Dam(中国三峡ダム)in Collapse?崩壊し始めた?中国の三峡ダムby Hiroshi Hayashi, Japan』と題する動画をユーチューブ(中国語:油管)に投稿した。その内容は、グーグルマップの衛星写真で見た三峡ダムの2009年と2018年の写真を比較して分析した上で、2009年には正常であった堤頂が2018年には上流側から押し出される形で下流側へ41メートル移動していると結論付けた。しかし、この動画を見たユーチューブユーザーの反応はいま一歩で、堤頂が変形して見えるのは衛生写真の歪みに起因するとする意見が多く、この結論に同意を示すコメントは少なかった。

(6)2019年3月5日には某ユーチューバーが「滑稽?日本のユーチューバーがグーグルマップから我が国の三峡ダムが変形し、三峡ダムが崩壊すると言っている」と題する動画を投稿して、林浩司の動画に反論を試みたが、ユーチューブユーザーの注目を浴びることはなかった。これは恐らく、上述した“五毛”が指示を受けて動画を投稿したものと思われる。

(7)それから15日後の2019年3月20日にユーチューブに三峡ダムに関する動画が新たに投稿された。投稿したのはアカウント名を“厲害了我的国(私の国は大変だ)”と名乗る人物で、投稿した動画の題名は「米国が三峡ダムを研究した後に出した結論は、いつ崩壊してもおかしくないだった」であった。動画が語った内容は、「三峡ダムは100年運用可能とは言い難い。当時の設計や資材に照らせば、どんなに多く見積もっても50年しか使えない」というもので、「三峡ダムの建設に使用した鉄筋やコンクリートには使用期限があり、長時間の雨水の浸食や浸透を経て一定の損傷が発生し、最終的には三峡ダムは崩壊するだろう」と断定していた。

(8)7月7日、冷山は再度ツイッターに書き込みを行い、上記(5)で述べた林浩司氏がユーチューブに投稿した動画を引用した上で、三峡ダムの衛星写真の立体動画を示して、ダムに大きな変形が見られ、いつ崩壊してもおかしくないと、その危険性について改めて警鐘を鳴らした。

画像のゆがみか、それとも……。疑惑を呼ぶGoogle earthの三峡ダム画像

こうした流れの中で上述の通り、7月5日に宜昌三峡大瀑布風景区有限公司が三峡大瀑布風景区の一時営業停止を発表したが、それは一時的なものとはいえども開業以来初の営業停止であったことから、世間を騒がしている三峡ダム崩壊の危険性と関連付けて、人々はあたかも三峡ダムの崩壊が身近に迫っているかのような恐怖を覚えたのだった。

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