いちばん危険なのは「いい子」

「非行という形でSOSを発することができる子どもはまだまし。いちばん危険なのは “いい子”と呼ばれるような子ども。そういう子どもの場合、実際には虐待を受けていたとしても、親も本人もそれが虐待であることに気づいていない」 

”いい子”とはどういう子か。 

「いまは親が強い。学歴が高い、経済力もある。いまの子どもは高校生になっても親に逆らえない。うちの子には反抗期がありませんでしたと言う親がときどきいますが、親に反抗しない子が”いい子”とされてしまう世の中です。子どもに逃げ場がないから、殺人、自殺、うつ病などにいたってしまう。もうそれしかないのです」 

中学校や高校の教員も口をそろえて警鐘を鳴らす。中学生や高校生にもなって、いくら親子の仲がいいからといって反抗期らしい反抗期がないのは不自然。そのまま順調に親子の希望の大学に進めたとしても、のちのち大きなトラブルを生じることが多いと言うのだ。大学生になってからのひきこもりや、社会人になってからのうつ病の発症などである。

逃げられただけでも偉い

坪井さんは「カリヨン子どもセンター」に逃げてきた子どもたちのエピソードを教えてくれた。

Aさんは有名私立高校に通う成績優秀な高校3年生だった。世間一般的に見れば、いわゆる「いいところのお嬢さん」。なんでも親の言う通りにする典型的な”いい子”だった。しかし家庭では、母親から2時間以上罵声を浴びせられたり、座っている椅子を蹴られ床に倒れたところにさらに蹴りを入れられたりした。 Aさんは学校の先生に相談した。しかし先生もどうしていいかわからない。

耐えられなくなったAさんは家出をする。するとあっという間に暴力団に声をかけられ、騙され、危険な状況に陥った。かろうじて友人に電話をすることができて、救出された。しかし彼女は自宅に帰るのも危険だと判断する。福祉事務所に相談し、カリヨンに逃げてくることができた。 

Aさんも典型的な「いい子」だった Photo by iStock