児童虐待は本当に「増加」「深刻化」しているのか

死亡事例・データから徹底分析
広井 多鶴子 プロフィール

警察庁が把握している虐待事件

まずは、警察庁のデータである。

警察庁が親(保護者)による児童虐待事件を集計するようになるのは1999年からであり、児童虐待防止法が制定された翌2000年の『警察白書』に、はじめて児童虐待に関する項目が設けられる。

図表2は、警察が検挙した虐待事件の被害児童の総数と死亡児童数の推移である。確かに、虐待の被害児童数は大幅に増加している。

しかし、それとともに死亡児童数が増加しているわけではない。図表2を見ると、親によって殺害される子どもは、むしろ減少傾向にある。

警察庁「平成30年における少年非行、児童虐待及び児童の性的搾取等の状況について」他より作成

その結果、虐待事件に占める死亡事件の割合は減少している。

2000年の『警察白書』は、児童虐待事件の被害者124人のうち、45人(36.3%)が死亡していたと書いているが、近年は10%未満、2018年は2.6%である(警察庁「平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」)。

では、死亡事件が減少しているにもかかわらず、なぜ虐待の検挙人員や被害児童数が増えるのか。それはこの数値もまた、虐待の発生件数ではなく、警察が虐待として認知し、検挙した件数だからである。

 

別のエッセイ(「子殺し」「母性崩壊」…日本で児童虐待はどう捉えられてきたか)に書いたように、かつての児童虐待は子を死に至らしめるようなひどい暴力と養育放棄に限定されていた。

だが、児童虐待防止法の制定によって、虐待の範囲が大幅に拡大され、警察が虐待の捜査や検挙に積極的に取り組むようになった。そのことが死亡事件以外の虐待検挙人員や被害児童を大幅に増やしたのである。

したがって、虐待の検挙人員や被害児童数の増加は、子どもを虐待する凶暴で残忍な親の増加を表しているのではない。国や社会が虐待と見なす範囲を拡大させて、そうした虐待から保護した子どもの数の増加を表しているのである。