カリスマホストが赤ちゃんを育てる海猫沢めろんさんの小説『キッズファイヤー・ドットコム』。川口幸範さんによって現在ヤングマガジンで連載中の漫画もコミック1巻が刊行となった。自身も子育て真っ最中ゆえ、その体験を踏まえた「子育てあるある」満載の漫画となっている。

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カリスマホストがひょんなことから赤ちゃんを育てることになるというのが物語の発端だが、キーワードは「みんなでする子育て」とも言える。さて、そんなめろんさん、実はシェアハウスでの子育てを経験している。テラスハウスのようなトキメキのある子育てだったのだろうか。

リアルなシェアハウス事情がそこにはあった。

海猫沢めろんさん連載「パパいや、めろん」はこちら

 

実際のシェアハウスは甘くない

シェアハウスに暮らして10年以上経つ――と言うと大抵の人が興味を示す。
どうもテレビでやっていたオシャレな恋愛ドラマのイメージを持っているらしい。
しかし実際のシェアハウスはそんな甘いものではない
今回は、そんなシェアハウスでの子育てについて書いてみたい。

ぼくは2007年から2019年の今に至るまで、同じシェアハウスで暮らしている。いや、「いた」と言うべきか。今は一年のほとんどを熊本の家で暮らし、シェアハウスにいるのは東京に滞在しているときだけだ。ぼくはかつて、そこで子供を育てていた。おまけに一時期はもうひと組家族がいて、全部で10人くらいの同居人がいた。

はじまりは12年ほど前、たまたま知り合いが一軒家を借りて、そこをシェアするというので入居者を募集していたのだ。ぼくはその頃、ほぼ全財産を投資で失い、ホームレス状態だったので、渡りに船とばかりにそこへ住み始めた。家賃は確か4万円しなかったと思う。

山の手の内側にあるその家は、2階建ての大きな古い一軒家で、黒いグランドピアノが置かれたリビングと5つの部屋があり、それぞれに東京藝大の関係者が住んでいた。東京藝大は日本で唯一の国立藝大であり、天才と変人しかいないことで有名だが、当然ながらこの家も例外ではなかった。

年収100万円以下

最初のメンバーは確か、地下アイドル、名曲喫茶の店員、変態クレーマー、パンマニアの帰国子女、ホームレス小説家(ぼく)、という構成だった(各人の詳細を書くときりがないので省略する)。

我々がイメージする「アーティストたちが集まるシェアハウス」ってこんな感じですが Photo by iStoc

ぼく以外は前にも一緒に住んでいたメンバーらしく、みんなわりと仲が良かったが、3年後にはそのほとんどが仕事の関係で引っ越して、初期メンバーはぼくと名曲喫茶だけになっていた。いや、元名曲喫茶か……彼女はその頃、名曲喫茶をやめてSMクラブのバイトをはじめていたのだから。

その時期、うちに暮らしていたのは、暗黒舞踏家、デッサンモデルをやってる美少年とその彼女、身長190センチのピアニスト、タイから帰ってきた仙人、プリンスに似てる男、藝大卒の浪人生……だったと思う(人が多いのでうろ覚えである)。

一階の大きな一部屋をカーテンで3つに区切ったり、一部屋に二人住んだり、そんな風にして9人が住んでいた。我々はみんなバラバラの個性だったが、この家に住む人間にはいつも共通点がひとつだけあった。

とにかく貧乏だったのである。

おそらく全員、年収100万円以下だった。生きていくためには生活費を削るしかない。このシェアハウスはそれぞれの専有面積と人数によって家賃が計算される。つまり人が増えれば増えるほど安くなるのだ。