2016年に名古屋で起きた小学6年生の受験生刺殺事件は、殺害の容疑で逮捕された父親に7月19日に判決が下る。この痛ましい事件だけではない。受験勉強をめぐって親が子どもにふるう暴力や暴言は、実は私たちのすぐそばでも起きている。

教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、中学受験、高校受験の現場も多く取材してきた。そこで出会ったのは、素晴らしい教育者や、学びを受けて生き生きとした子どもたちだけではない。「善かれ」「子どものために」と思いながらも、「誰の人生なのか」「誰が決める人生なのか」という視点が抜けてしまった親や教育者たちによる、「教育虐待」の現場も多く目にしてきた。

学校や受験の「良い部分」を知り尽くし、心理カウンセラーの資格ももつおおたさんだからこそ明確に見える「問題点」。多くの人たちに取材を重ね、一冊にまとめたのが『ルポ教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー携書)だ。「子どものため」のはずが、なぜ親に追い詰められる子どもたちが増えてしまうのか。その現実を知ることで、軌道修正は必ずできるはずだ。

刊行を記念して、本書より数回にわたっておおたさんが見てきた「教育虐待」の実情を抜粋掲載第3回。今回は、「反抗期がなかった」という女性の例を紹介する。彼女は家庭教師からの教育虐待を受けていた。しかし、それだけではなかった。

家庭教師による罵声・暴言

美千代さんは中学生のころ、高校受験のために家庭教師に勉強を教わっていた。その家庭教師は、5歳上の姉のボーイフレンド・徹さん。スポーツマンタイプの好青年だった。 しかし家庭教師としての指導は厳しかった。間違えると「なんでこんな問題ができないんだ!」と怒鳴られた。暴力こそなかったが、机を叩く音、罵声の数々、そのいちいちが美千代さんの心に突き刺さった。間違えるのが怖くて、いつも萎縮しながら勉強していた。

恐怖のせいで頭が働かない。ほとんど思考力停止の状態で問題を解くからまた間違える。そして怒鳴られる。さらに頭は真っ白になる。泣きながら解こうとするが、解けない……。悪循環だった。もともと勉強嫌いではなかった美千代さんだったが、この家庭教師と出会ってからは勉強が苦痛になった。毎回泣きながら指導を受けた。いまでも美千代さんは、男性が怒鳴る声を聞くと恐怖で体が固まってしまう

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