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古代のファラオも現代人も魅了する「植物の香り」3000年の秘密

NOMAの「植物偏愛教室」
モデルとして活躍しながら調香作業に没頭し、フィトテラピーやアロマテラピーを実践するNOMA(ノーマ)氏がブルーバックスWeb初登場。「植物の香り」がなぜ人を魅了するのか、エッセイで探求していきます。

日常の中で、恋する人々のような瞬時の至福感をもたらしてくれる存在は「植物の香り」くらいではなかろうか。

光合成の後に続く二次代謝物として生まれた芳香物質は、さまざまな生き物を惹き付け、地球環境をより豊かに彩る大きな役割も担ってきた。

人間にとってもその役割は大きい。長い文明の歴史の中でも、植物の香りは医学や文化、あらゆる所で活かされてきた。私たちはその存在を知るだけでも多くの学びを得ることができる。

加えて現在の私たちは、その植物の香りを自分のタイミングで取り入れることができるようになった。長い歴史を持ちながら身近な生活でも有用なこれらの香りについて、科学的な考察も入れながら綴ってみたいと思う。

ジャスミンの香りはなぜ人を吸い寄せるのか

自然豊かな場所である佐賀県の野山や川で野生児のように過ごして来た私は、幼い頃から植物が好きで、採集しては標本にしたり、マンホールの蓋ですりつぶして生薬的なものを作って遊んでいた。
(錆だらけのマンホールで作った生薬的なものが果たして健康に良かったかは何とも言えない)

そしてもちろん、植物の香りという存在も好きだった。

今年の5月も街中でジャスミンの香りを感じては見事に吸い寄せられ、香りを追って危うく知らないお宅におじゃまするところであった。

街中で鼻に入り込んだジャスミンの香りの分子は、まず鼻腔の奥にある嗅上皮の嗅細胞先端、嗅繊毛にキャッチされる。

嗅繊毛には約400種類の嗅覚受容体が存在するのだが、ジャスミンの香りの分子はぴったり合う受容体と結合し、香りの情報は電気信号に変換され、情報として脳の嗅球に伝わっていく。

嗅球で整理された情報はその後、嗅皮質に送られ、人間の本能や記憶、自律神経系を司ると言われる大脳辺縁系を直接的に刺激する。

そうなると、私の脳裏には過ぎ去った幾つもの5月の記憶や、通り過ぎたジャスミンたちの記憶が鮮やかに蘇ってくる。

ジャスミンジャスミンの花 Photo by Pixabay

五感と呼ばれる人間の感覚器の中でも、記憶に関わる海馬を含む大脳辺縁系へとダイレクトに伝わるのは嗅覚のみ。だから私たちは「香る」ことで貴重な体験ができるのだ。

調香してわかったこと

母が作ってくれたカモミールティーや祖母の自宅に広がっていた白檀の煙など植物の香りに留まらず、小学校のプールや幼稚園で使っていたクーピーなど、香りは過去の想い出も呼び起してくれる。