あの震災に直面してわかった「証券マンの役割とは何か」

東京マネー戦記【16】2011年3月
森 将人 プロフィール

それでも資金調達をしたい

翌週から、マーケットは一変した。企業の業績への影響を嫌気した投資家から、売りが殺到していた。

とくに打撃が大きかったのが、工場が被災して生産が追いつかなくなった企業だ。直接的な被害のない企業も、材料や流通網を確保できなくなることで業績に影響が出ることは避けられなかった。

マーケットの関心は、電力政策にも広がりつつあった。全国の原発を停止しろという声が高まり、電力会社など原子力に大きく依存する企業の経営が不安視された。

新たに資金を調達しようとする企業は、ほぼ皆無に近かった。マーケットの動きが大きくて、プライスの居どころがつかめなかった。3月末を前にして、多くの企業が年度内の調達にメドをつけていたという要因もあった。

 

「本当に今、資金を調達するんですか?」

残されたのは、Oという公益企業だけだった。多少無理してでもマーケットで予定通り資金を調達したい意向はあるが、どんな発行条件にするか見当もつかなかった。

坂下という財務の担当課長は、困り果てた表情でうなずいた。

「買い手はいるんでしょ? 取れるうちに資金を取っておけっていうのが、上の意向なんだよ」

「御社の社債であれば、今でも関心を持つ投資家はいます。ただ、それも利回りが高ければです。コストを払ってまで調達するかどうかは、よく考えたほうがいいと思います」

「条件のメドは立ってるの?」

「悩ましいですね。マーケットで値段はついていますが、そのプライスで投資家が満足するか、確認する必要があります」

「そりゃ、そうだよな……」

坂下は腕を組んで、ぼくが持参した資料にしばらく見入っていた。