「ああ〜だから今夜だけは〜」チューリップの名曲『心の旅』誕生秘話

関係者が語る
週刊現代 プロフィール

「夜汽車」での上京

新田 実はあの曲は当初、サビ始まりではなかった。「旅立つ僕の心を知っていたのか」のAメロから始まり、「あーだから今夜だけは」のBメロに続く一般的な構成でした。ところが演奏のレコーディング当日の朝、草野さんから突然電話が入り「今日の曲はサビから始めたらどうか」と提案がありました。なるほどと思った私は、財津くんと相談をして急遽構成を変えて録音することにしました。

伊藤 曲の構成自体はすごくシンプルですよね。「あーだから」で始まるパートと「旅立つ僕の」のパートの2つのメロディーだけでできている。でも訴える熱いものがある。僕らレコーディングスタッフは、その単純な曲の魅力を最大限引き出す努力をしました。

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例えば通常のロックではリズムを強調してそこにストリングスなどが添え物として乗る。ところが『心の旅』はベースのリズムよりも、チェロなどの低音楽器の音を随所で強調した。バランス的には悪いけど、結果として詞の世界やメロディーが持つ情熱を伝えることになりました。

 

新田 「写真」のように演奏された音をそのまま録音するのではなく、強調したい音を「絵画」のように自由に描く手法を意識しました。たとえばサビの最後の1小節とサビの前の1小節のピアノは通常の3倍くらい強調されている。ピアノの弦の真上にマイクを近づけてセッティングすることで、音の輪郭を鋭くとらえているのです。小田和正くんも早い時期から財津くんとチューリップに注目し、評価してくれていました。

伊藤 僕はサウンドが専門ですが、歌詞もいいですよね。

新田 財津くんの哲学が詰まっている曲です。ビートルズの『イエスタデイ』の最後でポール・マッカートニーが「愛とはゲームのようなものだ」と歌っています。「遠く離れてしまえば 愛は終わるといった」から発展し「愛に終りがあって 心の旅がはじまる」という結論は、まさに尊敬するビートルズの影響が自然に書かせた財津くんの哲学だと思います。

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伊藤 僕ら世代には、特に「明日の今頃は僕は汽車の中」というフレーズが響く。僕も地方出身だからわかるんですけど、東京に出るのは相当な覚悟がいる時代でした。今みたいに新幹線ですぐ戻ってくるなんてできなかったですから。夢や希望でいっぱいだけど、捨てるものもある。その複雑な感情がうまく表されている曲だと思います。

当時、若者が上京する時は夜汽車と決まっていたものです。でも、最近の若い人には「汽車」という言葉自体ピンとこないかもしれないけどね。

田家 財津さんも当時「東京は外国より遠かった」と言っていました。また、「旅立ち」のテーマは当時のトレンドでもありました。'71年発売の上條恒彦+六文銭の『出発の歌』や、'72年には、はしだのりひことクライマックスの『花嫁』が大ヒットした。特に「汽車」という言葉は、『花嫁』からインスパイアされたと財津さん自身も語っています。そこには彼のプロデューサー的なセンスを感じますね。