「お前は何もできないんだから」

彼はますます王様のようになっていった。外出は基本的にしてはいけない、もしくは彼と一緒にでかける。日常のスーパーへの買い物も一緒に行けない場合は、15分おきにテレビ電話をして報告をする、という規則を設けられた。仕事を辞めざるを得なかった私は、自由に使える収入も無い。彼に渡された微々たるお金を何に使ったか毎回報告し、毎日家で家事、仕事場で彼の仕事を手伝っていた。

スーパーの買い物も、一緒かテレビ電話で10分おきに監視をされながら。渡されたお金の範囲での買い物で、脱出できるレベルではなかった Photo by iStock

きっと、その悪循環を断ち切ったり方向を変えたりチャンスは何度もあったのだと思う。2人だけの狭い世界で彼に指示された仕事をするだけ、リアルな外の世界の話を聞けるのは彼からだけ、という状況で、どんどん判断力も気力も無くなっていた

私は時間を奪われ、収入減を断たれ、そしてさらに自信を失っていた。彼は事あるごとに、「お前は俺と出会えて幸せだな。他には何も出来ないんだから、俺の仕事を手伝えて最高な運命だな」というようなことを言った。一見ロマンティックにも聞こえるかもしれないが、この呪文のような言葉で私はどんどん自信を失い、彼の仕事を手伝うことでしか私はこの世で役に立てないのだ、と思い込むようになっていた。

さて、こんな暮らしが3年。私は毎日泣いていた。まるで幸せではなかった。願っていた幸せとはまるで違う。彼に怯えて顔色を伺う毎日に、自分の中のフラストレーションも溜まっていった。

恋熱にも冷静になってきて、彼の横暴さや尊敬できないことの多さに気づき始め、どうにか関係を変えたいと少しずつ思い始めていた。

しかし、そもそも私には収入も住む場所もないのだ。彼との付き合いに反対する両親とも絶縁状態にあった。私と彼はいつも側に居て、携帯が鳴ればすぐに内容をチェックされた。外部から私に連絡が来るだけで機嫌が悪くなるのだ。そのため、兄弟や友人との連絡もまともにできない。何より、今の環境から脱出したくても、どこに行けばいいのか、受け入れてくれる人もおらず、その状況から抜け出すことさえも恐怖になってしまっていた。

自分が無価値な人間になってしまったことに、心底絶望した。

今から思えば、これは明確なDVだったのだということがわかる。内閣府のDV被害調査では、無作為に抽出した20歳以上の世帯5000件にアンケートを実施したところ、31.3%の女性と19.9%の男性が「配偶者(事実婚含む)からの身体的、心理的、経済的、性的な被害があった」と答えている。その内容は下記のようなものだ。

1.身体的暴行:なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行を受けた。 

2.心理的攻撃:人格を否定するような暴言や交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期 間無視するなどの精神的な嫌がらせを受けた、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるので はないかと恐怖を感じるような脅迫を受けた。 

3.経済的圧迫:生活費を渡さない、貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されたなど。 

4.性的強要:嫌がっているのに性的な行為を強要された、見たくないポルノ映像等を見せられた、避妊に協力しないなど。

私はこの2と3の項目が揃っていたのだ。それを「暴力」と認識する余裕すら、私にはなかった