カンディンスキー『コンポジションVIII』

「柔らかい幾何学」の挑戦状! 片道路線と漢字の「一」が同じって?

45年前から色あせぬ入門書が再臨!
円盤と半球面を「同じ形」とみなす、「やわらかい幾何学」としてその名が知られる「トポロジー」。
そんなトポロジーの世界を初学者にもわかりやすく、身近に教えてくれる故・都筑卓司博士の名著『トポロジー入門』が、このたびブルーバックスで刊行されることになりました!
そこで今回は、桜美林大学の芳沢光雄教授が本書に寄せた推薦文を特別に全文掲載いたします!

45年前のものでも、数学ならば風化しない

本書は、初版が1974年の『トポロジー入門』(日科技連出版社)を新書化したものである。

たとえば政治や経済分野などの45年前の書となると、現実の状況に合わない面が多々あって、復刻版を出版する環境が整うことは稀であろう。

しかし、数学の入門書となれば話は別である。古代ギリシャのピタゴラスの定理は現在でも頻繁に用いられる定理であり、数学の定理は風化するものではないからである。

2000年以上たっても色あせないピタゴラスの定理
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一方で、数学の研究には日進月歩の発展があり、ときどき大きな成果が発表される。

「地図を塗り分けるのに、互いに境を接している国を異なる色で塗るには4色あれば足りる」という「4色問題」が肯定的に証明されたのは本書の初版から2年後の1976年であった。本書ではその問題に関して、“5色”として説明しているが、現実の状況に合わないものは何もない。

一般に数学の入門書は、大きく分けると二通りになると考える。

一つは、入門部分を丁寧にかつ厳密に述べたものである。もう一つは、旅行ガイドブックのようにイラストを交えて全体像を楽しく紹介するもので、本書は正にそれである。

トポロジー(位相幾何学)を厳密に学ぶ第一歩は位相空間論入門と呼ばれるものである。円周の内部のような開集合と、円周とその内部を合わせたような閉集合から始まって、重要な用語であるコンパクトの説明に至る流れであろう。この辺りの学びに関しては、「すべて」と「ある」の言葉の用法が必須である。

トポロジーの全体像を、旅行ガイドブックを眺めるように学べる本書を読むために必須となる事柄は、主に知的好奇心である。

やさしい例示が導く「トポロジー」

「トポロジーとは何だろうか」という知的好奇心のある者ならば、細部の説明の理解に拘らなければ最後まで読めるように工夫されている。その工夫に関して、本書では目を見張る点が二つある。

一つは、生き生きした例が多くの場面で用いられていることである。数学における例は、読者に「なるほど」という気持ちをもたせることが大切である。

たとえば、同じ「340×6=2040」という式の説明でも、「花子さんは340円の弁当を6個買いました。いくらになりますか」という例に関心をもつ者はいないだろう。しかし、「遠くの夜空に輝いた花火が光ってから6秒後にドーンという音を聞いたとき、花火までの距離は何mぐらいですか」という例ならば関心をもつ者もいるだろう(音は秒速約340m)。

ここで、本書の面白い例をいくつか挙げてみよう。