運動によるドキドキでは出ない
気持ちの変化による独特のニオイ

「また、緊張状態は別の場面もあるのではないかということで、ちょうど4月だったこともあり、弊社の新入社員に、初めてのプレゼンのときに片手にビニール袋をつけさせてもらい、皮膚ガスを採らせてもらいました。すると、彼らのほとんどからあのニオイのある皮膚ガスが発生。ニオイが出た人には一般業務のときにも袋をつけてもらって検証しましたが、ニオイは出ませんでした。

いよいよ『このニオイは何者だ?』ということで、正体を突き止めようと本格的なプロジェクトとして動き出し、そこから皆さんに発表できるまで約3年。ニオイのサンプルはずっと保存できるものではないため、サンプルがなくなったらまた皮膚ガスを集める、という繰り返しで大変でしたね。

ドキドキする(心拍が上がる)のは運動によっても起こりますよね。そこで、数十分間、自転車漕ぎをしてもらった後に採取した皮膚ガスの分析も行いました。しかし、まったくストレス臭が出なかったのです。よって、ストレス臭は運動によるドキドキでは発生しない、気持ちが変化しないと発生しないニオイだとわかりました。そして、このニオイの主要成分は、ジメチルトリスルフィド(dimethyl trisulfide, DMTS)とアリルメルカプタン(allyl mercaptan, AM)であることを突き止め、私たちはこの2成分を『STチオジメタン』と名付けました。

先程、ニオイのサンプルはずっと保存できるものではないと説明しましたが、ストレス臭は閾値が低い(人が感じる濃度が低い)ため、分析するときはかなり濃縮してから調べないと検出できません。また、短時間で発生する特徴があるようで、分析するために大量のサンプルを集めるのが、とにかく大変でした。

また、ストレス臭は心理的な影響があることも判明。心理学で用いられる検査を取り入れ、ストレス臭を嗅ぐ前と後の心理的変化を検証したところ、嗅いだ後は『疲労』と『混乱』の指標が高まることを確認しました。このニオイを嗅ぐと、発した本人も周りの人も疲労と混乱の度合いが高まり、悪循環になるのです。ですから、例えば、会議をしていた会議室を次に使う場合、伝染する可能性があるので、窓を開けるなどして空気の入れ替えをした方がいいかもしれません」