息子の窮地を救った父の手紙

そこで晴男さんは痛恨のミスを犯す。履歴書につい「○○高等学校卒業」と書いてしまった。人事から、証明書が必要だと言われ、自らの浅はかさを呪った。晴男さんは父親に相談した。するといつもは「自分の力でなんとかしなさい」としか言わなかった父親が、会社の人事にあてた手紙を書いてくれた。

「このときのことを思い出すと、いまでも感情が抑えられなくなるんです……」 こみ上げる思いを抑えるために、晴男さんはしばらく沈黙した。父親の手紙の文面を見せてもらった。

息子の行った履歴書の改竄は社会的に許されることではありませんが、親の立場より申し添えることをお許しください。

晴男は、本人の希望により高校一年で中退し、大学検定試験を取得しながらも大学へ行く選択をせず、今に至ります。 本人にも様々な葛藤がありながらも、貴社の準社員として採用され、慣れないノートパソコンを購入して、意欲をもって仕事に取り組んでいたように思います。

思えば息子に対し、逆境を克服する強さを希望しながらも厳しい選択肢を強いてしまったのではないかと考えております。愚かな親ではありますが寛大な御処置をお願いしたく、何卒宜しくお願い申し上げます。 

会社の執行役員に自分のしたことを正直に話し、謝罪し、父親の手紙を渡した。一読した執行役員は、決意を込めた目で晴男さんを見て、こう言った。「わかった。なんとかしてやる」。

執行役員が人事と掛け合い、晴男さんは無事、正社員になることができた。後日、執行役員が晴男さんを飲みに誘ってくれた。「これは愛だ。学歴のことを隠すこともないが、わざわざ言う必要もない。お前はこの会社で活躍できると思う。がむしゃらに頑張れ」。 

「一度はレールから外れましたが、27 歳にしてようやくその場に立つことができたと感じました。誰からも認められるような仕事をしようと決めて、がむしゃらに働きました」 

晴男さんはめきめきと頭角を現す。4年後には課長に昇進した。そのときまた、あの執行役員が声をかけてくれた。「ここまでよく頑張った。もうこれに頼らなくていいだろう。これを返す。ここからは、 お前の実力だ」 手には父親の手紙を持っていた。 

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生きているなかで、この瞬間ほど感動したことはありません

晴男さんはその後、恩人である執行役員の退職を見届けて、40歳で現在の会社に転職した。