歌人で作家の小佐野彈さんは台湾在住。台湾の町をこよなく愛しているのだが、先日とんでもないことに出くわした――。
編集部注:この記事にはやむを得ず繰り返しリアルな「汚物」が出てきます。お食事中の方はなにとぞご遠慮ください。
快晴なのに「小雨」?
つい先日のことだが、「クソ!」と叫びたくなることが起こった。
締切直前の原稿の前で日がな唸っていた僕は、ふと朝から何も食べていないことに気がついて、夜食をとろうと台北の自宅を出た。
僕が住んでいるマンションは、台北市内の歓楽街にあって、築年数も浅く快適なのだが、斜向かいにかなり年季の入ったボロい雑居ビルがある。
1Fには、宝くじを売る小規模店やカレー屋があって、2Fにはゲイバーやちょっと怪しげなマッサージ店なんかも入居している。
小説家兼歌人として、いわゆる物書きを生業としている僕の生活は、基本的にかなりインドアだ。カーテンを締め切った部屋で、一日中原稿用紙やパソコンに向き合っていると、外の天気がわからなくなる。そこで、外出するときはスマホで必ずリアルタイムの天気をチェックするようにしている。
その日は、快晴。
傘も持たずに、Tシャツとハーフパンツにクロックスというラフな格好の僕は、近所の深夜まで営業しているカフェバーに向かおうと、マンションのエントランスを出た。
すると、天気予報では快晴となっていたのに、小雨がぱらついている。
「あれ?おかしいなあ」と思いながらも、目的地は近所だし、台湾のビルには「騎楼」と呼ばれる庇(ひさし)があるので、ビルの庇づたいに歩いてゆけば、多少の雨ならばほとんど濡れずに目的地へ至ることができる。
ところが、家を出て道を渡り、斜向かいのビルに近づくと、雨脚が強くなった。
うわ! 急ごう! と、小走りになったとたん、ふと違和感が生じた。
……なんか臭い。いや、これはかなり臭いぞ。
「きゃあ、これ、糞尿よ!」
すると、真横を歩いていたおばさんが、大声の中国語で叫んだ。
「きゃあ! これ、糞尿よ! ビルから糞尿が降って来ているわ!」
戦慄が走った。
なるほど、この臭いはたしかに、人糞の臭いである。
なんと、斜向かいのビルの下水管だか汚水タンクだかが破裂して、そこら中に屎尿が降り注いでいたのである!