中国の空母「遼寧」が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろしい未来

沖縄-宮古島間海峡を通過して太平洋へ
鈴木 衛士 プロフィール

訓練内容は格段に進化している

では、この空母艦艇群の実際の運用能力はどうであろう。

過去3回のこれら艦艇群が太平洋に展開した際の活動状況について、防衛省統合幕僚監部の公表資料から見てみるとその一端が窺える。

 

(1)平成28(2016)年12月の状況
空母艦艇群は、青島(チンタオ)の母港に集結後、出港したものと見られ、東シナ海を経て沖縄・宮古島間を通峡して太平洋に進出した。

海上自衛隊が確認したところによると、この東シナ海で活動した際には、「フチ級補給艦(AOR-966:23,000トン)」が随伴していたことから、訓練を兼ねて洋上補給を実施した後に太平洋へ進出したのであろう。太平洋へ進出後は特に目立った活動等はなく、程なく台湾を周回するように台湾南部のバシー海峡を西航して台湾海峡を北上し帰投したものと思われる。

これらは、日米台に対する軍事的示威行動はもちろんのこと、艦艇群としてこれらの海峡を通峡することや太平洋へ進出することを主目的とした外洋航海訓練であったものと考えられる。

(2)平成30(2018)年4月の状況
このときは、前回と逆コースで青島を出港した空母艦艇群は東シナ海を経て台湾海峡を南下した後、台湾を周回するようにバシー海峡を東航して西太平洋へ進出した。この際、西太平洋へ出たところで空母に搭載した複数の艦載戦闘機による離着艦訓練が行われているのを海上自衛隊が視認した。外洋で空母「遼寧」の艦載戦闘機による離着艦が行われるのを確認したのはこれが初めてであった。

また、これら艦艇群が西太平洋へ進出して反転北上し、沖縄・宮古島間を通峡するまでの3日間にわたり、中国海軍の航空部隊と連携した訓練も実施した模様である。この爆撃機や支援機は、中国本土の基地を離陸して東シナ海を横断し、沖縄・宮古島間の海峡上空を南下して空母艦艇群とは逆コースを飛行して台湾を周回するように母基地へ帰投した。爆撃機が東シナ海から同海峡上空を西太平洋へ抜けるまでの間には、戦闘機2機による随伴(エスコート)も確認された。

航空自衛隊のスクランブル機がこれらの航空機を写真撮影し、爆撃機(H-6)が対艦ミサイル(ASM)と思しきミサイルの搭載を確認したことなどから、この爆撃機等は空母艦艇群と対抗訓練を行ったものと推定される。

恐らく、航空部隊は(米空母打撃群への攻撃を模擬して)艦隊攻撃を実施し、一方の空母艦艇群は空母を中心とした対空防護訓練を実施したのであろう。即ち、これらは前回のような外洋航海と示威行動が主体ではなく、外洋における実戦的な戦闘訓練を主眼に置いたものであったと考えられる。

以上2回の状況を見ると、初めて西太平洋へ進出して1年半足らずの間で訓練内容は格段に進化していることが窺える。

今回から加わった最新型補給艦

最初に太平洋へ進出した際は、空母に艦載機の搭載は確認されなかったが、2回目の通峡時は艦上に8機の戦闘機とヘリ1機の搭載が確認された。艦内にも艦載機は格納可能なので実際に何機搭載していたかは不明であるが、「遼寧」は20機ほどの戦闘機(J-15)が搭載可能とされている。

最後に、今回の6月の状況を見ると、艦艇の種類や規模も今までとほぼ同等であったものの、今回は空母艦上に戦闘機等の搭載は認められなかった。しかし、今までと全く異なる点が三つ確認された。

一つめは、先に触れたように最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦」が初めて随伴し、「今までよりさらに航海距離を延伸してグアム周辺まで航行した」ということ。

二つめは、1回目と2回目は空母に随伴した艦艇の半数である3隻(ミサイル駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻)が同じ個艦であったのに対し、今回は空母を除く全ての個艦が、「今まで空母に随伴して外洋(太平洋)に出たことが認められなかった艦であった」ということ。

そして最後に、今までの2回は北海、東海、南海艦隊それぞれの艦隊所属艦からなる混合編成であったのに対して、今回は全て「空母の母港である北海艦隊所属艦で編成されていた」ということである。

これはいったい何を意味するのか。筆者は、いよいよ「北海艦隊で『遼寧』を主体とする空母打撃部隊が本格的に編制された」のではないかと考えている。

今回は、この手始めとして東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡し、太平洋へ進出して新たに加わった高速戦闘支援艦による空母への洋上補給を演練したり、それぞれの戦闘艦艇が隊形を組んで空母を護衛したりする訓練を実施したのではないかと推定する。加えて、南シナ海への覇権や台湾の問題などで中国を抑え込もうとする米国に対する示威行動として、グアム周辺におけるプレゼンス活動を実施したのであろう。

今回、艦上に艦載戦闘機等を搭載していなかったのは、米国を過度に刺激しないよう配慮した結果かもしれない。

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