中国海軍初の空母「遼寧」(photo by gettyimages)

中国の空母「遼寧」が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろしい未来

沖縄-宮古島間海峡を通過して太平洋へ

米中貿易摩擦の行方が最大の注目点となったG20サミットが開催される少し前の6月11日早朝、中国海軍のクズネツォフ級空母「遼寧(りょうねい/CV-16:65,000トン)」を中心とする6隻の空母艦艇群(グループ)が東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡(南下)して太平洋へ進出した。

同艦艇群がこの海峡を通峡したのは、平成28(2016)年12月25日(海峡南下)、同30(2018)年4月21日(海峡北上)に次いで3回目である。

これは、西太平洋方面への外洋航海を兼ねた日米台(日本、米国、台湾)に対する軍事的示威行動(プレゼンス)であるのは明らかであるが、われわれが何より注目しなければならないのは、これら中国の運用の進化。即ち、「中国海軍の空母運用がどれほど実戦に即してきたか」ということである。

 

人民解放軍がダミー会社まで作って手に入れた空母

この空母「遼寧」というのは、元々旧ソ連海軍クズネツォフ級空母の2番艦として「ワリャーグ(ロシア語で戦士の意)」と名付けられ、ウクライナ造船所で建造されたものであった。

しかし、完成間際にソ連が崩壊して整備計画がとん挫し、ウクライナがソ連から独立したため宙に浮いていた本艦は、ロシアとの交渉の後にウクライナの保有となった。

これを中国の人民解放軍の息のかかったマカオの観光(ダミー)会社が、「カジノ付きの洋上ホテルに改修する」との名目で1998年にウクライナから買い取ったものである。

この際、エンジンやその関連機器、電気系統などはほぼ元のままの状態であった模様である。その後、このダミー会社は消え失せ、購入時の契約で定められていた「軍事目的で使用しない」との約束は反故にされて、本艦は機関や設備から兵装に至るまで大幅な改修が加えられ、2011年に中国初の空母として完成に至ったのである。 

大連港に停泊中の空母「遼寧」(photo by gettyimages)

人民解放軍がダミー会社まで作ってこの空母を何としても手に入れようとした背景には、1996年の(第三次)台湾危機が関係している。

この年、中国が台湾海峡で弾道ミサイルなどの実射演習を行って(独立派の李登輝総統の再選が懸かった総統選挙直前であった)台湾を軍事恫喝した際、米国は「ニミッツ」と「インディペンデンス」を中心とする2個空母戦闘群(CVBG:Carrier Battle Group/空母を中心とする攻撃部隊)を台湾海峡周辺に派遣して中国をけん制し、台湾海峡は一触即発の状態となった。

結局、戦闘は回避され、中国の目論見は失敗に終わり、李登輝総統は無事に再選を果たしたが、中国はこのCVBGによる米軍の機動力の高さを目の当たりにすることになり、将来的に米国に軍事力で対抗するためには、何としても空母を保有する必要があると痛感したのであろう。

外洋活動に必要なコマはそろった

最初に空母「遼寧」艦艇群による沖縄・宮古島間の通峡が確認されたのは、前述のように「遼寧」完成から5年後の平成28(2016)年12月であった。この時の艦艇群の編成は、空母「遼寧」のほか、ルーヤンⅢ(ミサイル駆逐艦7,000トン級)1隻、ルーヤンⅡ(同)2隻、ジャンカイⅡ(フリゲート艦4,000トン級)2隻の計6隻であった。

2回目の平成30(2018)年4月は、「遼寧」のほか、ルーヤンⅢ1隻、ルーヤンⅡ3隻、ジャンカイⅡ2隻の計7隻であり、ミサイル駆逐艦が1隻多いほかは、1回目とほぼ同じ編成であった。つまり、この編成が中国海軍の空母艦艇群としての基本編成なのであろう。

因みに、現在の米海軍空母打撃群(CVSG:Carrier Strike Group)の基本的な編成は、空母(100,000トン級)1隻、ミサイル巡洋艦(7,000トン級)1~2隻、ミサイル駆逐艦(9,000トン級)2~4隻、攻撃型潜水艦(6,000トン級)2隻、補給艦(40,000給油艦/高速戦闘支援艦等)1~2隻の計7~11隻となっており、中国はこれを参考にして保有する艦艇の中から編成を組んでいるものと考えられる。

米海軍のCVSGと比較すると、この2回の「遼寧」艦艇群の中で欠落している艦艇がある。それは、攻撃型潜水艦と補給艦の存在である。

この内、潜水艦については実際に艦艇群に先行するなどしていたかもしれないが、これは表には出てこないので何とも言えないものの、周辺で活動していた可能性はあるだろう。

一方、補給艦については、この6月の空母「遼寧」艦艇群の編成で新たに確認された中国海軍の最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦(AOE-965:48,000トン)」の存在に刮目しなければならない。この高速戦闘支援艦(Fast Combat Support Ship)というのは、空母の運用に必要な補給を行うため特別に設計された補給艦であり、燃料から弾薬や数千人分の食料に至るまで、この1隻で全て空母艦艇群に関わる補給を賄うことができる能力を有している。満載排水量は今までの中国海軍の補給艦の倍以上で、速力も25ノットと高速で航行する空母に追随することが可能である。

つまり、今回の艦艇群を見ると、編成上これで中国海軍の空母艦艇群が外洋で活動できる駒がそろったということになる。